ちょっとの虫にも…

こどもって面白い

 秋も深まった頃のお話し。うだるような暑さの日々も過ぎ、涼しくなって動きの遅くなった彼らに天敵たちが容赦なく襲い掛かる。「発見っ! むひひひっ、ハラビロや!」「ごっついなぁ」「あっちに水たまりあるで…」「お尻を水につけてと…さてと出て来るかなぁ…うわっ! きた~っ!」「長げ~っ!」「うわぁぁぁぁっ! めっちゃ動いてるぅぅっ!」天敵である子どもたちに捕獲されたカマキリのお尻から現れたハリガネムシは、カマキリの2倍はあろう体を水の中でぬたりぬたりとくねらせるのであった。金属的な物体が不規則に丸まり伸びる姿はちょっとSF的で、生き物というより制御不能のロボットのようでもある。単純に気持ち悪い。

 ところで、「一寸の虫にも五分の魂」は普通は「一寸(3.03cm)ほどの虫にも小さいながらも魂や命がある」という意味とされている。その際には「一寸」は大きさや長さを示す単位として理解されているわけだが、虫の命の短さ、はかなさを鑑みるとき、実はこれは時間的な単位の「ちょっとの間」であり、五分は「5分(300秒)」ではないのかという異説を唱えたのは日本における不条理演劇を確立した劇作家別役実であり、その論は名著『虫づくし』に詳しい。

 虫たちのはかない命の時間のある瞬間に偶然にも遭遇した子どもたちは、ひょっとするとちょっとの虫との出会いがその後の人生を変えることになるかも知れない。ハリガネムシを研究する生物学者やあのつるつるした体表から新素材を発見する化学者が生まれるかも知れないし、ぬたぬたした動きを数学的に解析する者や、孤独に命に向き合う姿を哲学的に論評する者が現われるかも知れない。いや誰かひとりでもそんな人になってくれないと虫たちの命が報われないと、毎年繰り返される光景を見続けているボクは思うのだ。

 ところで、土中にいるある種の線虫はガン患者のおしっこのニオイに反応することが発見され、ガンの早期発見の切り札となるのではないかといわれたことがあった。ちょっとの虫のすごい能力に感心しきりだったボクの脳裏には次の瞬間恐ろしい映像が…ひょっとして、もしかして止むにやまれぬ事情で森で立ちションなどしてしまったら、とたんにあたりの土がざわめいて線虫がおしっこに押し寄せてくるというホラー映画のような場面が想起され、今後森でのかような行為は慎もうと心に誓った次第なのである。その昔、ボクが子どもだったころにはミミズにおしっこをかけるとチ○チ○がはれるといわれたが、これからはおしっこに線虫が寄ってきたらすぐに病院に行くべしという迷信が生れるのだろうかと、ちょっとの虫の話に5分以上、妄想が膨らんだ晩秋の夜なのであった。

(2015/04月号)

蛇足
 この文章を書いた頃、線虫のすごい能力がマスコミに取り上げられていました。いまではTVコマーシャルでも流れるほどになっています。たかが虫なんてとても言えませんね。将来的にはいっそのことトイレ便器に線虫を飼っておいて、ことの度に検査したらどうなのかなどとまたまた妄想が膨らんだりしたのですが、トイレの度に健康不安を掻き立てられていては身が持たない、これは却下という結論に至ったのでありました

線虫 N-NOSE

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