カギの秘密

こどもって面白い

 ある日の工房でのひとこま。「今日は何作るん?」「う~ん…そうや、南京錠作りたいんやけど!」「えっ?なっナンキン錠…それって鍵で開けたり、数字合わせて開けたりするやつ?」「うん、YouTubeでダンボールで作ってるやつ見てん!」

 ガ~ン!キターーーーーーッ、ユーチューブ! 最近はこどもたちもネットを情報源にしているらしく、いろいろなもの作りが動画で紹介されているYouTubeは大人気だ。確かにすごいバリエーションがあって見ている分には楽しいのだが、それをテキストに実際に作ろうとするとかなり大変なのだ。だってすごく適当な説明が流れる中、画像はキュルキュル早送り、キューピー3分クッキングよろしくあっという間にモノが完成しちゃったりするのだ。こどもが見たであろうダンボールで作るダイヤル式の南京錠も、確かに形は鍵だけど精度とか強度とかは問題外、しかも同じ形のダンボールを30枚用意しろって早送りで見せられても、こどもにそんな根気はないっていうの!結局、動画を一時停止しながらパーツを図面に起こして、ベニヤ板を素材に糸のこで作れるようにデザインしなおして一週間後にこどもたちと作ってみたのだった。

 何やらメカ的なものを想像させるこの手のモノは大きい男子たちには人気で、女子たちは見向きもしないことまでは想定内だったが、意外と低学年の男の子たちも作りたいとチャレンジしてくれた。カンタンな作りにしたとはいうものの、それでも15個ほどにもなるパーツをこどもたちは糸のこに向かって黙々と切っていた。パーツができていざ組み立ててみると…やっぱりここでも精度の壁が! 結局、組み上がった瞬間に二度と開かない「開かずの南京錠」を完成させた(?)こどもも数名いたりしたのだった。

 それにしても、こどもたちが鍵にこうも反応するのはどうしてなんだろう。単にメカ的な魅力だけではなく、鍵をかけて秘密を守るというイメージに魅力を感じているのではないだろうか。そういえば前回のお泊り会で作った「海賊船の宝箱」は男女問わず人気だった。ここにも自分だけの大切なものを秘密にしておきたいという気分が漂う。

 考えてみれば、生存に関わる何もかもを周りに大人に依存している赤ちゃんには秘密はない。こどもたちは成長とともに大人から離れた時間と経験の中で、自分だけの秘密を見つけ心の宝箱にためながら自立していく。友だちとの共通の秘密は友情を深めてもくれるだろう。こう思うと案外秘密が人を育ててくれているのかも知れない。

 ところで、小生のように人生齢を重ねると人さまには言えぬ秘密も増加の一途をたどり、あの世まで持っていくにも棺桶に収まりそうもなくなってたので断捨離せねばと思っているのだが、これってメルカリで売れないもんですかね?

(2019/10月号)

蛇足
 「ここだけのヒミツな!」この一言が人間関係がググっと深める。というか抜き差しならないものとしてしまう魔法の言葉ですね。秘密の共有は蜜の味。
 開かずの金庫を解錠するテレビ番組をついつい見てしまうのも、隠されたもの、人が知らないものを見たいという衝動によるものか。それとも苦労して苦労してやっとのことで解錠に成功するカタルシス?ついつい観ちゃうんですが、あんまりいいもんが入っていた試しがないので、開かずは開けずのままにしておく方が夢があっていいのかも知れません。

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