働く人、遊ぶ人

こどもって面白い

 ある日のこと、スタッフルームの入口からお呼びがかかった。「ふうちんいる?」と男の子の声、「いるよ。どないしたん?」「ふうちんの写真撮らせてほしいんやけど」「写真って…そらええけど、いったいどんな写真撮りたいの?」「あんなぁ『働いてる人』の写真が撮りたいんやけど」「働いてるって…工房でなんかもの作っているとことか?」「ううん、そうやなくてパソコンしてるとこ」「パソコンしてるとこ?…ええけど、働いてるみたいに見えるかなぁ? こんなかっこうでパソコンして、まるで休日のお父さんの写真みたいになるけどなぁ」

 パソコン使って仕事している人というイメージでいえば、整然としたオフィスの中でスーツにネクタイでキーボードをたたいてるって感じがするのだが、こちとらジーパンにTシャツ姿で実に雑然とした机でパソコンに向かっているのだから、その差は歴然なのだ。
「こんなかっこでええんかなぁ?」「いいのいいの、はいピッ!」とその子は携帯のボタンを押して写真を撮ったのだった。

 「それって宿題なん?」「ううん、宿題とは違うねんけどな…ちょっと…」とその子は言葉を濁していたのだが、それにしてもどこかで発表するのであれば、もう少し世間受けのする働く人の写真の方がいいのではないかと思い、たまたま工事に来ていた作業服姿の人たちに写真も撮らせたもらったりしたのだった。「働く人の写真撮らせてください」とお願いしてカメラを向けると、おじさんたちは忙しい手を休めてちょっと気恥ずかしそうに、でも自信に満ちた表情で写真に納まってくれたのだった。働く男はカッコいいねぇ!…ところが、その子の表情はいまひとつさえないのだ。

 「やっぱりふうちんの写真にしとくわ」「プレイスクールの仕事って遊ぶことやねんけどなぁ。仕事してるみたいに見えるん?」「うん! だってな、みんな遊んでるときにふうちんひとりだけパソコンして仕事してるやん!」

 確かに最近は事務仕事などで遊びの現場に出ることがめっきり減ってきてしまったので、その子には他のリーダーは遊んでいるのにボクひとりが仕事をしているように思えたらしいのだ。こどもと遊ぶということがわれわれプレイワーカーの主たる仕事ではあるが、当然この場を維持するためにはそれ以外の仕事もあったりするわけである。遊んでるだけじゃなくて、それを支えるためにも仕事があるということがわかっているなんて、なかなかすごいではないか。

 その昔、低学年の女の子と話をしていて「それでふうちんの本当の仕事はなんなん?」と聞かれたことがあった。プレイスクールが仕事なのだと説明したが、その子は納得できない様子で「違うやん、そうやなくて本当の仕事やん。例えばハンバーガー屋さんとか…」つまりこの子にとっては、自分と遊んでくれていることが仕事だなんて信じられなかったのだろう。きっと他に仕事があってプレイスクールには遊びに来ていると思っていたのかも知れない。いずれにしても説明しにくい仕事ではある。だから働くふうちんの写真を撮ってくれた男の子も、いざその写真の人がどんな仕事をしているかを説明するのには困ったに違いない。

 後日、その子のお母さんに写真のことを話したら、求人誌が募集している写真コンテストなのだという。なるほどだから仕事する人がテーマなんだ。何だぁ、それならそうともう少し早くいってくれたら、バリバリ仕事している雰囲気で、でも笑顔を絶やさずって感じに演出したのに!
 ひょっとしたら転職のチャンスを逃したかも?

(2009/10月号)

蛇足
 われわれプレイワーカーの仕事はこどもたちと遊ぶことなので、一見こどもと遊んでるだけで仕事になるなんていいねなんて思っている人も多いことだろう。でも子どもたちが元気に遊べば遊ぶほど危なっかしいことこのうえない。ましてや森に行ったときなど、トゲのある木は生えてるは、スズメバチは飛んでくるは、マムシにウルシにカエンダケ…数え上げたらキリがない危険と隣り合わせなわけだけど、案外そんな中でも大きなケガや事故はないものなのだ。
 しかし今の時代、こどもたちの遊びに付き合う中での最大のリスクは、「安心安全」が一番と信じ切っている世間さまではないのか。

タイトルとURLをコピーしました