工房でこどもたちを待っていると、うきうきしながらやってきたこどもがひとこと「今日は小人さんの家作るねん」「そうかぁ、ほんでどのくらいの家作るの?」「う~ん…これくらい!」とその子は両手を思いっきり広げて見せた。いやいやそんな大きかったらキミが入れるで…といいかけて「うーん、今はそんな材料ないから、今日はもうちょっと小さくしいひん」「ええよ」とあっさりとその子は納得してくれ、家作りが始まったのだった。小さいとはいうものの家は家、直角に木を切るのはなかなか難しいので結局はこちらが用意してあげることになるのだが、ここからこの小さい施主様のご意向伺いが始まるわけだ。
「で、家は何階建て?」「そら2階建てやん」「はいはい…屋根の形はどんな形なん?」「うーん…」「たとえば三角形でとんがっているとか、寝ているとかやなぁ」「そうそう、こんなんとかもあるなぁ」「へぇ~よく知ってるなぁ」などと話をしながら材料を用意していく。その子と一緒に三角の屋根を作って家の上にかぶせてみると「これやったら屋根裏部屋もできるなぁ…でもこうしたらもっと広くなるか」「えっ!?そんな形にするんかいな…」「う~ん、やっぱり平らな屋根にしよ!」
施主様の鶴の一声で設計変更、このほかにも窓はないのか、入口のドアはどこにつけるのだ、2階に上がる階段が急で怖いなどの難問が続出。さらには煙突がほしいといいだしたので、「ストーブの煙突か?それとも暖炉?」「えっ?ダンロ?」「ああ、そやからサンタさんとかオオカミさんとかが入ってくる四角いやつやん」「ああ、あんなぁ、丸くてくねくね曲がっているやつがええねん」と施主様は工房の隅にある薪ストーブの煙突を指差したのだった。
「よっしゃ、ほなストーブはこのへんに置こか」と匠(=ボク)までもが彼の熱意に打たれ、気がついたら木端で観音開き暖炉型のストーブを作ってしまっていたのだった。家を置く底板用にと少し大きな板をあげると「わぁこれならガレージもできる。隣との柵はどないしようか?」とエクステリアの心配まで始まってしまった。実は彼んちは少し前に新しいうちに引っ越したばかりで、家を作るということにリアリティがあるからなのだろうが、次から次へと広がるイメージに付き合うのは面白かった。それにテレビ番組の匠のように、使いもしないようなからくり階段や収納棚を作る必要もない。
「階段なぁ…ここにつけたらめちゃ急やなぁ…う~ん」と施主様はこの難問に頭を悩まし、ちょっと気分転換にと外に遊びに行ったまま、結局その日は工房には帰ってこなかったのだった。というわけで、いかなる匠を持ってしても、この小さい施主様の次から次へと広がる妄想のスピードと気まま勝手さにはついていけず、家はいつまでたっても未完成なまま、ビフォアービフォアーなのでありました。
( 2009/07月号)
蛇足
こどもたちは家づくりが大好きだ。それは生きるために巣を作るという本能として遺伝子に組み込まれているからなのかも知れない。小さな家から秘密基地作りへと、年齢とともに大きく現実的なものになっていく。
ちなみにプレイスクールの入っていた施設はかなり刺激的なデザインだった。そのせいなのか大きくなって建築を志すこどもも多かった。ある時、取材に来られた建築雑誌の編集者と話をしていた時、そんな話をしたら「それはこの空間が《強い》からかも知れませんね」とおっしゃった。そうか、空間にも強弱があるのかと、ちょっと目からウロコだった。
設計 六角鬼丈 http://www.rokkaku.biz/kijo/
彫刻 新宮晋 https://susumushingu.com/