恐竜の玉子

こどもって面白い

 もう中秋の名月も過ぎたというのに、今年の暑さはなかなかしぶとい。クーラーのないプレイスクールで一番涼しい工房に吹き込んでくる風も熱風だったりする。

 今日も工房にこどもたちがやってきた。にぎやかな声が響いている。そんな工房から悲鳴にも似た歓声がわき上がる。「あーーーっ! また割れてもうたぁ!」「今度のは惜しかったなぁ! もうちょっとやったのに…」「くそ~っ! もういっこ作ろっ!」

 今日の発明クラブでは、風船と石こうを使って大きなおおきな玉子を作っているのだ。
風船に空気を入れて適当な大きさにしておいた中に、空気がもれないようにしながら石こうを流し入れる。うまい具合に石こうが全体にいきわたるようにしながら固まるのを待って、風船を割ると中からダチョウの玉子か、はたまた恐竜の玉子かというような大きな玉子が出現するという塩梅なのだ。ところが、世の中そんなふうに簡単に行くわけもなく、大きくすれば風船の中の圧力が高くなって割れやすくなるし、石こうを入れるときに失敗すると空気とともに石こうが逆流して大爆発!となかなかころ合いが難しいのだ。

 この石こう玉子作りにハマったこどもが先ほどの声の主なのだ。工房に来るなり作り始め、割れたり爆発したりしながら、石こうで真っ白になりながら作り続けていたのだった。前はこうやったから今度はこうしようと工夫に工夫を重ねて、とうとう最後にはラクビーボールほどの玉子が完成したのだった。

 「やったぁ~っ! できたぁぁぁっ!」その大きさと美しさに周りにいるこどもたちも騒然、「すげぇぇぇっ! でけぇぇぇっ!」「うわぁぁ、恐竜の玉子みたいやぁ!」「ホンマや恐竜の玉子や!」とはやし立てる。「なぁなぁ、どうやったらそんな大きい玉子ができるん?」そんなふうに聞かれた質問に作者のこどもはひと言、「それは挑戦し続けることや!」「なるほどぉぉっ!」「その通りや!」実物を前に発せられたこの重いひと一言に、一同納得! 

 挑戦し続けることって、アンタちょっとカッコよすぎるじゃありませんか! でもこどもって、日々いろいろなことにチャレンジし続けて、ひとつひとつできることが増えていく存在だから、挑戦し続けることっていうのは生きることに等しいのかも知れない。彼のひと言で、みんなが挑戦をはじめ、工房の玉子作りがなおいっそう白熱したことは言うまでもない。白熱しすぎて、工房が石こうで真っ白のなってしまったのはご愛敬。ボクなど昨日と同じことが明日もできるようにすることで精いっぱい、「挑戦」ではなく「維持」することで生きてますから。みんなカッコいいなぁ!

 翌日、巨大恐竜の玉子を作った子どもとバッタリ出会ったら、どうも表情がさえない。どうしたのかと聞くと、昨日家の持って帰ったら年下の兄弟にみごとに破壊されてしまったのだとか! そうか、彼にとっての恐竜は玉子の中ではなく家の中にいたらしい。今度はもっと大きいのができるように、もう一回、挑戦しようぜ!!

(2011/10月号)

蛇足
こどもたちにとって生きることは挑戦することに等しいけれど、勉強に習い事と挑戦しなければならないことがどんどん増えてきているような。自分の好きなことにとことん挑戦できるような経験こそが大事なような気がするのです。えっ?好きなゲームとことんしたいって…う~ん、まぁいまの時代eスポーツなんてのもあるから、それもひとつの道かもね…爺ぃにはわからんけど

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