春は食べ頃、やうやう芽吹きし野の草の、少し苦き味にこそ春感じられ、いとをかし
家族プログラム「カンガルーアクト」は、今年もプレイスクールの周りの春をいただく「野草の天ぷら」で始まった。ヨモギ、カラスノエンドウ、オドリコソウ、タンポポ、イタドリ、ユキノシタ…この周辺には猛毒の野草はほとんどないので、何を採っても食べられるがうまいかどうかは別問題だ。身近な自然にも食べられるものがいっぱいあることに気がつき、「もうこれからはスーパーで野菜買わんでもええやん。こんなに食べられるもんあるで!」と目が円マーク¥になっているお母さんもいたりするのが、晩ごはんのおかずにと家族で必死に野の草を摘む姿はちょっとさみしい。やっぱりみんなでわいわい楽しく食べるのが一番だ。
プレイスクールに戻っていよいよ天ぷらのスタート。お父さんたちといっしょに大きな鍋で揚げるのだけれど、揚げても揚げてもすぐにみんなの口の中に消えてしまう天ぷら無限地獄が始まる。子どもたちも食欲旺盛でヨモギやタンポポの苦さも気にせずモリモリと食べている。その姿を見て「家では野菜キライで食べへんこの子がこんなに天ぷら食べてる」と感激するお母さんもおられるが、実はこの具材はただの葉っぱで天ぷらのほとんどが油を吸った衣、つまりは「うまいは脂肪と糖分でできている」を証明しているようなものなのだ。
ただし小さいうちに苦さを許容できる舌を作っておくことは大切なことなのだ。甘さや塩味の嗜好は生理的なものらしいが、苦みは経験値によるものなのだという。親が飲んでいるコーヒーやビールに口をつけて苦い~っとうなった経験は誰にでもあるだろう。本来、苦いものや酸っぱいものは毒だと感じる本能に、この経験は苦くても安全な食品があるという情報を加えるとともにその子の味覚の幅を広げるきっかけとなるのだ。
カンガルーアクトのベテラン会員の方々は、野草の天ぷらだけではお腹を満たす前に胸焼けになるという苦い経験を積まれているので、さつまいもやかぼちゃ、れんこんやしいたけなどを持って来てくださったりする。一説には行事の案内メールに暗に差し入れを要求する一文があったとも伝えられているが、今回は何と豚肉やイカ、それにハモまで天ぷらのネタとして登場したのだ。元来、この家族プログラムは身近な自然を楽しむという主旨をおこなっているわけなので、きっとこの豚もプレイスクールの周りの森にいたものなのだろうし、イカとハモは下のこくぞう谷池に住んでいた淡水のものに違いない…ということにしておこう。春の苦さを感じる野草の天ぷらも美味しいが、落語の「目黒のさんま」よろしく「ハモはこくぞう谷に限る」とうなってしまったのだった。そしてきっと来年は淡水のフグの白子が獲れるに違いない確信するボクなのであった。
おやつについたヨモギ餅も春の味でとても美味しかった。野草はただの草に過ぎないけれど、身近な自然にも季節は感じられる。要は自然の移り変わりを感じ取れる感性を持っていることが生活をちょっとだけ豊かなものにしてくれるのだろう。
春は野草、夏はスイカ、秋はきのこ、冬はこたつでみかん…あぁ結局、食べてばかりなのね!
(2015/05月号・2023/4月改稿)
蛇足
この時期、小学生の冒険クラブでも野草を摘んでてんぷらを楽しんでいるのだが、高学年ともなると「ヨモギのこの苦さが春の味やなぁ」とか「やっぱり肉厚のユキノシタが一番うまい」などといっちょ前なことを宣ったりする。天ぷらだけじゃものたりないので、うどんを茹でておいて天ぷらうどんにして食べたりもした。まぁ結局は、脂肪と糖分で満足しているわけだけど…
いつだったか秋頃にちょっとした気の迷いで、おやつにクッキーを焼いて出したことがあった。活動が終わって家に帰ったこどもがお母さんに「冒険の今日のおやつクッキーやってん!」と大喜びで報告したらしい。そしてそれに続けて「いつもは草とかどんぐりばっかりやのに…」 いやいやそんなことはありません。この場を借りて訂正いたします。草を食べるのは春のこの時だけ、どんぐりは2、3年に一度、しかも食べたい人だけ食べてるのであって、毎回、無理やりにそんなもん食べさせてるわけじゃございません!