「大人の本気をみせてやれぇぇっ!」ひとりのお母さんの声に、「おぉぉぉぉっ!」と反応するお父さんたち。そして「高射砲っ! マグナムぅぅぅぅっ!」「くらえっ! 波動砲っっっ!」という雄叫びとともに、竹水鉄砲から勢いよく発射された水は容赦なくこどもたちを濡らしていく。きっと傍目には何と大人げないことと見られるのかも知れない。でもここにいるこどもも大人もみんなが歓声を上げ、とびっきりの笑顔があふれている。
今日は家族プログラム「カンガルーアクト」の活動日なのだ。このプログラムは家族みんなでプレイスクールの周りの自然と遊ぼうという趣旨のもとさまざまな活動を展開している。今回は竹を素材に水鉄砲を作って遊ぶプログラムだ。全国的にも放置竹林が問題となってるが、御多分に漏れずプレイスクールのある京都府南部地方でも竹林面積の増加が大問題となっている。多くは戦後に収益率の高いタケノコをとるために植えられた竹が、その後安い輸入ものに押されて放置竹林となってしまったものだという。成長の早い竹は、既存の林よりも高く伸びて日光を遮り最後は竹林にとって代わる。さらに混みあった竹林の栄養がなくなると竹は地下茎で隣の土地へと広がっていくのだ。照葉樹林に比べると多様性のない竹林には生きものも住みにくいので、自然の多様性を守るという意味においても竹を積極的に活用して竹林面積をコントロールすることは有意義なことなのだ。
太い竹のひと節と細い竹を使って水鉄砲を作るのだけれど、あるとき隙間テープを使うとチョー簡単に作れることに気がついた。細い竹に隙間テープを巻いてピストンにするのだ。作りが悪いと入っている水の半分くらいしか飛ばず、半分は自分のかかるという情けない結果になったりするが、それも手作りのご愛敬といったところだ。さすがにこどもだけでは作れないので、お父さんお母さんに手伝ってもらって作るのだけれど、いざ出来上がると恩を仇で返すとはこのこと、こどもたちはテロリストよろしく誰かれ構わずまわりの大人に水をかけまくるのだ。
自分のお父さんお母さんなら家族内の問題だが、その場にいる大人みんなを敵に回して戦いを挑んでくれるので、水鉄砲合戦はいつしかこども対大人という世代間闘争へと発展し、冒頭のような光景が展開されるわけなのだ。考えてみればこどもが知らない大人相手に水をかけても許される場面などそうそうはないので、こどもたちはいつも以上ハイテンションとなっている。もちろんこどもとて一定の礼節をもって戦いを挑んていて、水を満タンにした水鉄砲を抱えながら実に悪そうなニチャ~っという笑顔とともに放水が始まるのだ。こどもの悪そうなかわいい笑顔は宣戦布告だ。ボクはこの時のこどもたちのこの笑顔が大好きだ。いつもはいい子をしているこどもがフッと何かから解放されているような感じがするのだ。今日はやんちゃしてもいいぜ! 思いっきりいこうぜ!
これに対して大人たちも負けてはいない。こどもたちの攻撃に身体を張って本気で立ち向かってくれる。親戚付き合いや近所付き合いが薄くなっているいま、家族以外でそんなに本気で遊んでくれるおっちゃんやおばちゃんもそうそうはいないだろう。自分がこどもだった頃、こんなふうに大人の立場をカッコに入れて対等に関わってくれた大人ことって案外と覚えているものだ。反対に大人らしい対応しかしなかったひとは記憶に薄い。きっと大人の攻撃にびちゃびちゃになったこどもたちも、今日の本気の大人たちのことをいつもでも覚えているに違いない。夏が来た 大人も本気 こどもも本気の水遊び!
(2017/07月号)
蛇足
すでにお父さんお母さんの世代でも、こどもの頃に自然の中で遊んだ経験のある方は少なくなってきています。カンガルーアクトをしていると、こどもよりも大人の方が楽しんじゃっている姿をよくみました。いいんです。遊ぶときは大人をカッコにいれて、本気で遊びましょう!
人との付き合い方が何となく難しくなってきている今、遊びを通じてゆるやかなコミュニティが作れたらいいですね。