ざざざざぁ、ずずずずぅぅぅぅ!「ひぃえぇぇぇっ!やっほぉぉぉっ!」
雪を蹴散らす音をたてながら子どもたちがゲレンデの下に向かって真っすぐに滑っていく。いや、滑っているというよりは落ちていくという方が正確かも知れない。曲がろうなどとはこれっぽっちも考えず、ただひたすらスキーをハの字にして突き進んでいくのだ。その姿は、緩斜面で突然意味もなくジャンプしてすっ転びニヤけているボーダーなどとは比較にならないくらい潔い。とても昨日生まれて初めてスキーを履いたとは思えないほどの上達ぶりだ。
毎年1月に小学生たちと家族組が乗り合わせたスキーツアーに行っていた。幼稚園の年中さんから小学校低学年までの初心者もたくさん参加してくれたが、いつもみんなそれなりに滑れるようになってくれた。何よりスクールのレッスンが手厚いのだ。初心者なら2、3名にひとりのインストラクターがついてくれ、とにかく丁寧に教えてくれる。しかもほとんど「褒め殺し」(?)でスキーの楽しさだけを伝えてくれるので、図に乗った子どもたちは「あれ?オレってうまいんちゃうん!」とますます調子に乗って滑れるようになってしまうわけだ。おかげで初日のうちに長いリフトに乗って山頂から滑り降りられるほどになってしまうのだ。教える方もスゴイが、滑れるようになってしまう子どもはもっとスゴイ!
2日目も朝からみっちりレッスンをして、午後からはフリー滑走、文頭の様子はそのときのものだ。レッスンも終わって好きに滑っていいとなると子どもたちの目の色が変わる。レッスンでは曲がる練習などもしていたが、とにかく滑ることが楽しくて仕方がないので面倒くさいターンなどせずに真っすぐに滑り落ちていくというわけなのだ。
社会学者のロジェ・カイヨワによれば、遊びは「模擬」「偶然・運」「めまい」「競争」の4つに分類することができるという。そのスピードに身を任すスキーは、ジェットコースターやブランコなどと同じ「めまい」の範疇といえよう。それは「脱・意志」であり「脱・ルール」が生み出す遊びでもある。自分でスキーをコントロールできるかできないかのギリギリのところで、広いゲレンデを自由に滑れることが楽しくて仕方ないのはこんな理由によるのかも知れない。きっと滑っている子どもたちの頭の中には快楽物質ドーパミンが出まくっていることだろう。
まるでコマネズミの様に滑ってはリフトに乗ってまた滑ってはリフトで上がるを繰り返し、さすがに子どもたちも疲れたのだろう、帰りのバスの中ではぐったりしていた。「脚が痛いぃぃっ!」「頑張りすぎて、身ぃいったんか」「みぃいる…?」「あぁ、これ関西弁で筋肉痛ってことや」「ふう~ん」もっとも子どもたちの回復力の速さなら、一晩寝て明日にはもうピンピンしているに違いない。子どもにつきあって滑っていたこちらもなかなかの疲労度だ。それが一番わかるのが休憩時間にバスのタラップから降りるときの太ももの辛さ! でも本当の地獄は明日か明後日にやってくるんだろうなぁ! あぁ加齢猛進、反応遅進…
(2019/02月号)
蛇足 日本のスキー人口は、1998年の1,800万人をピークに減少し、近年では雪不足やコロナ禍の影響もあって2020年には430万人にまで減少しているといわれます。一方、インバウンドで一時は中国からの観光客で盛り上がったものの、コロナ明けでもいまだに以前ほどには客足は戻っていないとのこと。最近ではタイからのお客さんが初めての雪遊びのためスキー場に来ているだそうです。日本中どこに行ってもインターナショナルなんですねぇ。