「お~い! 行くぞ~っ!」「…む~ん、むにゃむにゃ…」「出発するよ~っ!」「…@△□○!」「起きろって!」「…zzzzZZZ!!」道路に寝ころんだこどもたちはなかなか起きあがらない。夜食のラーメンを食べるとそれまで元気だったこどもたちがこの通り、やっぱり眠たいんやろなぁ、もう夜中の3時半やもんなぁ!!
小学校高学年のこどもたちと久しぶりにナイトハイクを行った時のことだ。毎回たいへん人気のプログラムで、チラシを渡すやいなや定員オーバー、瞬殺で満員御礼になるほどの好評ぶりなのだが、諸般の事情で毎年は行わず2、3年に1回と決まっているのである。
夜10時、集まってきたこどもたちはやたらと元気である。たぶん仮眠をとってから来たのだろう、瞳はランランと輝いている。そしていざ歩き始めるや、見慣れた世界が異次元の世界のように見え出す。真っ暗な森の小道をヘッドライトの灯りを頼りに進む。昼間に見慣れた風景も闇の中、頼りになるのは隣にいる友だちの存在だ。そのせいかやたらとみんなおしゃべりになる。しかも自分の存在を示すかのように声も大きい。
気分もかなり高揚しているようだ。何たっていつもなら早く寝なさいと就寝をせかされて布団の中にいる時間なのに、今夜ばかりは起きていてもいいのだから! 何をするでもなく起きているということ自体がこどもをハイにさせる。お酒がなくても起きているだけでハイになれるなんて、安上がりな人たちである。
かような状態なので、夜中に小学生の団体がわいわいと騒ぎながら歩いている光景を想像されたい。森の中を歩いている間はいいものの、住宅街の中を通るときなど迷惑なことこの上ない。だからできるだけ人家を避け、社会の迷惑にならないようなルートを歩くように配慮はしているつもりだ。
以前のナイトハイクでは、夜食のラーメンを食べているときに巡回中のパトカーがやって来てちょっと困ってしまったこともあった。こんな夜中に小学生たちが集団で、ライトの明かりの中ラーメンをすすっている姿は、世の常識的にどう考えても説明しにくいではないか。「いや実はわれわれはこどもたちのあそび場をしている青少年活動団体でして…」などと、お玉とさいばしを手にしたヒゲ面の輩が釈明するのだから余計に怪しい。さすがに青少年団体に「健全育成」という言葉はつけられへんかったけど…
今回も明け方には無言になったり、不機嫌になったり、意味不明な会話で盛り上がっていたりするこどもたちが増えたけれど、みんな最後まで歩き通した。後日お母さんたちに聴いたところによると、あれだけフラフラになっていたこどもたちみんなが楽しかった宣っているのだそうだ。きっとどれだけの距離を歩いたとかではなく、とにかく朝まで起きられた、徹夜出来たということに達成感を感じているのだろう。そしてそれが自分がひとつ大きくなったという自信にもつながっていくに違いない。
プレイスクールに戻ってしばらくの仮眠タイムをとったものの、朝日が昇り明るくなりだすやこどもたちの眠気はどこへやら、グランドでボール遊びを始めたり、砂場で砂山を作りだしたりと、撃沈爆睡しているリーダーたちを尻目に朝いちから全力で遊び倒していたのでありました。
ナイトハイクを毎年しない諸般の事情? 徹夜に慣れて夜遊び好きのこどもにならないようにかですって?…いえいえ、ただリーダーの体力がついていかないからです!
(2007/10月号)
蛇足
いまやよほどの山奥にでもいかないと暗闇すらない時代ですが、こどもたちは明かりの届かない部屋すみっこの暗がりにすらおばけや妖精を見つけたりします。経験や常識が豊富な大人はまるで蛍光灯に照らされすみずみまで明るい部屋のように世界を見ていますが、未熟なこどもたちにとっては自分のすぐとなりに暗がりと闇があるのです。でも彼らはそんな闇を認め、それと共生しているともいえます。きっとこどもたちにとって闇はまだ見ぬ世界や発見が眠るわくわくしたものとしてあるのでしょう。