闇に広がるイメージの世界

こどもって面白い

 「むか~し昔、あるところにたおマジック、しんしんマジックがおりました。ある日、たおマジックはお買い物にいきました…」おっ、次のお話がはじまったようだ。ただいま夜中の1時半、ここはプレイスクールのとなりの森の中、今日は小学生の冒険クラブのワンナイトキャンプなのだ。午前零時の夜食のラーメンを食べ終えても生き残った…いやいや起きている子どもたちは焚火の周りに集まって、実にどうでもいいような話に花を咲かせているわけだ。もっとも人間のコミュニケーションなどというのもは、かなりの部分は意味のあるものや論理的なものではなく、言葉をキャッチボールすることにこそ価値があるわけで、その意味では子どもたちは実に有意義な時間を過ごしているともいえるのである。先ほどからひとりの男の子が語り部のように思いつくままにお話を語っていて、ほとんど独演会のような様相をていしているのである。その内容がまたかなりいい加減で、しかしちゃんとめでたしめでたしの結末を迎えるので、まわりの子どもたちも茶々を入れながら大笑いして聞いているのだった。ラーメンでお腹もふくれて、焚火の周りで暖かくして語り部話に耳を傾けるというまるで大昔にタイムスリップしたようだ。その場のみんながお話のイメージを共有してその世界に遊んでいた。

 しかし時計が丑三つ時に近づくにつれて、語り部も睡魔との戦いに疲れはじめたのか話が支離滅裂になりだし、これを聞いている子どもたちの瞼も半分閉じはじめて茶々を入れる元気もなく舟をこぎだすのだった。この様子を見ていたリーダーたちは目配せをして「さぁそろそろ寝袋に入ろうか。うんうん、まだ寝なくてもええよ。ちょっと寝袋入って休憩しよ」かくして今回のキャンプは2時半過ぎに子どもたち全員撃沈(?)、焚火周りでのこのお話し大作戦は子どもたちを寝かしつけるのに有効な手段だということにリーダーたちは気づかされたのだった。よし、次のキャンプもこの作戦で臨むことにしよう。

 そして、しばし森には静かな時間が流れたのだった。といっても、この静けさはそう長くは続かないのだった。昨夜のプログラム「ダンボール王国の逆襲」が終わった10時前に寝た子どもや、その後のドラム缶風呂に入ってほっこりしてから寝袋にもぐりこんだ子どもたちは夜が白々と明けだした6時前には起きだして来て、早朝から砂場で工事を始められたりしたのだった。こんな朝早くからスコップで砂を掘らなければならないほど工期に追われておいでなのであろう。ご苦労さんなことである。

 そうこうするうちに一年生の男の子がボケボケのまま起きだしてきた。彼も昨夜はかなり遅くまで頑張っていたのできっとまだ半分夢の中なのだろう。見れば昨夜のプログラムで使ったアイテムの剣を手にしている。「この剣って誰が作ったんやろ?」と僕に聞いてくるので、「ああ、それはオレが作ったんや」といらぬことをポロリと言ったら、その子は真顔になって「えっ?あれってプログラムやったん!」とのたまったのだった。えっ?ひょっとしてあのダンボール王国のロールプレイングゲーム、本気で信じてたのか! ここにも森の夜にイメージの世界に遊んでいた子どもがいた。

 焚火の明かりとランプが照らし出すほんの少しの明るいところ以外、森には漆黒の世界が広がっている。そして、子どもたちの世界観って案外とのこんな感じなのではないかと思うのだ。大人は知識や経験という大きなライトを持っていて、世界中を明るく照らしてどこにでも道に迷うことなく歩いていけると信じている。これに対して子どもの持っているライトはとっても薄暗く、自分の足元以外は闇に囲まれた世界にいるのではないだろうか。そしてこの明るさと暗さとの間のグレーゾーンに子どもたちしか考えつかないようなお話しやイメージの世界が展開されるのではないかと思うのだ。そして、この曖昧な世界こそが世の小説家や芸術家が追い求める創造の源なのではないか。実は子どもたちはそんな世界に生きているのかも知れない。そうなのだ。きっと森の闇には子どもたちがイメージの世界に飛び立つ翼があるのだ。

(2015/12月号)

蛇足
 年に3回行っていたワンナイトのキャンプ&お泊まり会は、こどもたちとの根比べでした。普段の子どもたちの生活は、学校から家に帰っても早く宿題しなさい、早くごはん食べなさい、早くお風呂入りなさい、早く寝なさいと時間に縛られているので、このキャンプではそんな縛りをなくして、起きてたかったらいつまで起きててもいいよということにしてあるのです。
 高学年ともなると本当に徹夜する子もいましたが、ほとんどのこどもたちは途中でリタイアしていました。それでも普段は起きていない時間まで起きていられたことに満足感を感じ、よくわからない自信を深めて翌朝帰っていったのでした。まぁたまにはいいよね!

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