さぁお待たせしました! ここからは怒涛の年度末、さまざまな行事に頑張るこどもたちの姿をお伝えする『がんばる君大集合』のコーナーです。
最初のがんばる君は…
丑三つ時もとっくに過ぎたプレイスクールの囲炉端、まだライトもつきこそこそと話し声も漏れ聞こえる。「あれっ?まだ誰か起きてるんかな?」今夜は小学生クラスの発明クラブのお泊り会なのだ。零時半まで園庭の外灯をコウコウとつけてサッカーに興じていたこどもたちをおねむモードにいざなうべくライトダウン、低学年はコロッと寝袋に入ってくれるのだけれど、高学年の中にはなかなかにしぶとい輩もおり、友だちとふたりでリーダーを従えて囲炉端でたき火をしながらご歓談中なのである。ここまでくると起きていること自体が目的化していて、言いかえれば彼らは睡魔との壮絶な戦いの真っ只中にいるのである。気を許すと下がってくる瞼を必死につり上げ、マキをくべ続け、静かにしていては一瞬で意識を失いそうなので、やたらと饒舌になって話し続ける。もちろん話題は何でもよく、話したとたんにすでに記憶にはない。何かをし続けるということが生き残る(?)ための最大の防御なのだ。何でもいいからし続けたいのであれば、次のお泊り会では「算数ドリルマラソン」でもすればいいのに…あっそれじゃ睡魔の不戦勝ですね!
「おっまだ起きてるんや!」と声をかけるボクに「うん!頑張ってるやろ!」とその子たちは自信満々に答えてくれた。結局、寝袋に入ってからも四時半までねばっていた彼らは、翌朝みんなが起き出してもでっかいダンゴムシのように寝袋で丸まっていたのだった。でもよく頑張って起きていた。次は徹夜かな?
では次のがんばる君です。
今日は併設の幼稚園の卒園式。こどもたちにとっても晴れ舞台、七五三以来の着物姿やはかま姿のこどもたちはどこか嬉しそうだ。でもこの手のセレモニーはさまざまな手順や段取りがあり、覚えなきゃならないことがたっくさんあったりするのだ。友だちみんなと歌を唄うのはいいとして、最大の頑張りどころは卒業証書授与ってやつだ。ひとりずつ前に出ていかなきゃなんないし、園長先生の前でおじぎして、台に乗って握手して、賞状の入った四角い筒をもらって、台を降りてからもう一回お辞儀する…大人でも順番を間違えそうだ。しかも昨日までの練習のときにはガランとしていたお部屋には、お父さんお母さんに先生たちみんな、それにプレイスクールのリーダーまでいるのだから、緊張しないわけがない。歩くときに右手と右足がいっしょに出てしまったり、握手で左手を出してしまったり、最後のお辞儀を忘れたりするのも仕方がないだろう。そして、人生で最大の試練を乗り越え、卒園証書を手に入れたとたんに緊張感はどこへやら! はかまをめくりあげてる子、胸元ははだけた子、鼻くそほじくり出す子、隣の子とにらめっこは始める子と、リラックスムード満開。まぁこれは無理もなく、ちょうどこのタイミングで来賓のごあいさつなどというこどもたちにとっては世界一退屈な時間がやってきたりするのだから。とにもかくにもみんなよく頑張った。これで小学校への扉は開いた。でも学校ってもっと長いこと座ってなアカンけど大丈夫か?
卒園式の中で卒園児のお父さんお母さんから歌のプレゼントがあった。今年は中島みゆきの「麦の唄」だった。
♪麦は泣き 麦は咲き、明日へ育っていく♪
ボクの席の前でリズムに体をゆすらせて快く唄っているお父さんがいた。きっと我が子の未来に思いをはせて、心からの応援歌として唄っていたに違いない。そして、こどもの耳にもこの歌声はいつまでも残っているのだろうなと、ちょっとうるうるしながらその光景を見ていたボクがふと視線を下げたとき、そのお父さんの靴下にあいている穴を発見してしまったのだった。父は家庭とこどものために、靴底をすり減らし靴下に穴をあけながらもお仕事を頑張り、今日めでたく我が子のこのハレの日を迎えたのだ。最後のがんばる君はまちがいなくお父さん、あなたです!
そんな頑張ったキミたちに乾杯! もちろん今夜はニッカピュアモルト竹鶴のオンザロックで!
(2017/04月号)
蛇足
普段は上下ユニクロ姿のわれわれリーダーたちも、こどもたちのハレの日、この時ばかりはスーツ姿で参列させてもらうのだが、もうそれだけで仮装のような目でみられ落ち着かないこと甚だしい。こどもの中には「誰やこのひとたち?…」と目を丸くしている子もいたりする。しかし毎年ネクタイがうまく結べず苦労する。ロープワークやったら自信あるんやけど…
「麦の唄」は、日本初のウイスキーづくりがテーマだったNHK連続テレビ小説「マッサン」(2014年)の主題歌でした。