先日、テレビでお受験のために勉強している幼児さんを橋のたもとに連れて行って、「このはしわたるべかららず」というトンチを解かせるという番組があった。もちろん一休さんの有名なトンチなのだけれど、ほとんどの子どもがわからず困惑しきりだったのにはちょっとびっくりしてしまったのだった。お受験するくらいだから当然文字も読めるし、きっと算数だとか英語だとかもお勉強しているんだろうが、忙しすぎて絵本とかテレビとかは見るヒマもないのだろうか。
想定外の問題に答えがみつからず、困ったときの子どもたちの反応もそれぞれだった。すかさずカバンからケータイを取り出してママに電話する子どもや、中には問題の書いてある看板を押し倒し問題そのものをなかったことにして、何食わぬ顔で橋を渡っていく強者もいた。「塾でも単に問題を解くだけではなく、どーしてそうなるのかをよーく考えるようにといつもいっています」と自信満々のお母さんの子どもは、橋の欄干に額をあてて長時間の熟考ののち「あ~疲れた」とひと言。しかしこれって「よーく考えるように」という母の教えに従って「よーく考える」というポーズをしているだけにも感じられたのだった。橋の端っこを歩いてしまった子どもに「橋の真ん中を歩けばいいのよ」とお母さんが正解を教えたとたん、「もう一度やる」と泣き出す子どももいたのだけれど、この子にとってはトンチも正解がただひとつだけある塾の問題と同じでしかなかったのかも知れない。いつもひとつの正解を求めて間違ったら正しい答えを暗記し二度と間違わないようにするというこの子の反応からは、きっとお母さんにほめてもらいたいという一心で過酷なお受験生活を過ごしているんだろうと、その健気な姿を観ているボクの方がテレビの前で泣きそうになってしまったのだった。
関西でも有名私立大学が小学校を作って、東京に続いて西の「お受験戦争」が始まるといわれて久しい。子ども人口の減少に危機感を持つ大学による生徒の囲い込みは、子どもたちを早期教育に駆り立てる。ちなみに小学校から大学まで進学すると2000万円ほども必要なのだという。これだけの費用をかけてはたしてその教育的効果はいかほどのものなのだろう。もうここまでくると投資を通り越して投機といってもいいかも知れない。その昔ひと騒動あった某IT会社の社長は何事にも「想定の範囲内」とのたまっていたが、人生何があるかわかりません。ましてや今の子どもが大人になる頃には、有名大学を出ただけで明るい未来が約束されている時代ではないことだけは明らかに「想定内」なわけで、「想定の範囲外」のことに遭遇した時にいかに自分の人生を切り開くことが出来るかが大事なのだろう。
話しはもどってトンチのお話し。実はプレイスクールは一休さんが晩年を過ごしたというお寺の近くにあるので、この問題をプレイスクールの幼児さんたちにさせたらきっとみんなできるに違いないと思ったのだが、よーく考えたら彼らは字を読むのもかなり怪しく、問題の意味もわからないという想定外の結論に至ったのだった。
(2006/02月号)
ちょっと解説…
このエッセイは2006年に書いたので、当時トンチに悩んでいた子どもたちも今ごろはきっと有名大学の学生さんになって、想定外のコロナ禍の中でもがいているのかも知れませんね。某IT社長・堀江貴文氏は、ロケットを開発するなどいまも多方面で想定外の活躍をされています。
一休さん(一休宗純)は晩年を「酬恩庵一休寺」で過ごし、88歳で亡くなり一休寺に眠っています。ちなみにテレビの「一休さん」のイメージが強いですが、禅僧としては実に型破りな逸話がたくさん残っています。まさに想定外の僧侶だったようです。