ここ掘れワンワン…金かダイヤか、はたまた砂か!

こどもって面白い

 「おーい、でっかい砂山作ろうぜ!」「やろう!やろう!」「まわりに水入れて池も作ろうや」「ええやん、めっちゃでかいのん作ろ」こうして今日もきょうとてこどもたちはスコップ片手に砂場でのお仕事に励まれるのであった。これは決して幼児さんだけではなく、土曜日の小学生クラスでも毎回誰かが砂場で遊んでいるのだが、さすがに年齢が上がると作ってくれる砂山もハンバなく高く、さらに砂場横の水道の蛇口全開で水を投入し、砂場全体が海のようになっていることもままある。2ヶ月に一度の水道検針票の請求金額を知っているボクとしては頭がクラクラする思いで「水の出しっぱなしはヤメてね」とお願いしなければならない。また捕まえてきてたカマキリやトカゲを海に泳がしたり(本人たちはそう思っている)、砂山に埋めていたり(本人たちは部屋を作っているつもりでいる)するのを見つけると「そんなことしたら、今夜夢枕に巨大なカマキリとトカゲが出てきて食べられるぞぉぉぉっ!」とやんわりと動物愛護と生物多様性を訴えたりしなければならないこともあるのだ。

 こどもたちが砂場に惹かれるのは、砂や水の感触を手で感じる心地よさとともに、山や池、トンネルなどを自分の思い通りの世界を作れるという「全能感」を感じられるからだろう。それはまさに「神は七日間で世界を作り給うた」といわれる神の存在となることだ。こどもたちは砂場で神に近づこうとしているのだ。裏返せば、こどもたちは普段の生活では弱い立場で何かとストレスを感じているということでもある。いまやこの全能感はゲームやバーチャルな世界でも感じられるようになっているけれど、まだ砂場というリアルな世界にいてくれる方が健全なような気もする。

 ところでこどもたちにとっても身近な「砂」にたいへんな問題が起こっているらしい。いま問題になっているのは、砂は砂でもコンクリートを作るときに使われる砂(骨材と呼ばれる)のことで、世界中で資源としての砂の奪い合いが始まっているというのだ。砂なんて砂漠にいけばいくらでもあるじゃないのと思うのだが、実は砂漠の砂は粒子が細かすぎてコンクリートには使えないのだという。だから砂漠の都市ドバイにある世界一高い「ブルジュ・ハイファ・タワー」も外国から大量に輸入した砂を使って建てられている。

 海の砂もそのままでは塩分があるため、コンクリートの強度が出なかったり鉄筋が錆びてしまったりするので、洗浄してから使わなければならない。一番いいのは川の砂なのだけれど、川の上流にダムが作られて山から土砂が流れてこなくなって下流での川砂の堆積量が減っている。そして海の砂浜ももちろん減っていて、日本では波に洗われて毎年17センチずつなくなっていいる。180年後には日本から砂浜はすべてなくなってしまうともいわれている。とにかく砂がなくなっているのだ。

 世界中で都市化が進むことでビルや道路などの建設にコンクリートの需要は増加するばかり、恐ろしいスピードで建築の続く中国では、年間25億トンものコンクリートが消費されている。アメリカが20世紀の100年間に使ったコンクリートの総量は45億トンなので、中国は2年間でこれを超えてしまうことになる。なんとも規模がスゴすぎるなぁ…

 そんな貴重な砂をめぐっては「砂マフィア」が暗躍し、世界各地で不法な採取が行われているという。その結果、美しいビーチがなくなったり、水辺の生態系が壊されて生きものがいなくなったり、漁場がなくなって漁師さんたちが困ったりとさまざまな問題が生じているのだ。いやはやタイヘンなことになっている。それに比べればうちの「砂場マフィア」はせいぜい落とし穴作ってリーダーをはめて喜んでいるくらいなのでかわいいものだ。

 そんな世界の砂事情とは無関係に、今日も砂場の中の神様たちは寒風をもろともせず砂と水で自分たちの世界を創造している。「心頭滅却すれば火もまた涼し」なのかもうすぐ師走だというのにまだ蛇口全開だ。だからぁ~流しっぱなしはヤメてくれ~っ! あぁ来月の水道代の請求額がおそろしい…

(2021/12月号)

蛇足 
 全知全能で世界を創造する場としての砂場は、残念ながら公園などから撤去される例が増えています。
 国土交通省によると、都市公園の砂場は43,912ヶ所(16年度)でこれはピークだった10年度から7,600ヶ所余り(14.8%)減少。全国約9万ヶ所の児童公園での設置割合も58%(7年度)から44%(16年度)に減少しています。
 多くは砂場に犬猫の糞尿が混じって不衛生との指摘によるものとのこと。確かに管理するのは大変なんでしょうが、こどもの成長にとって大切な場がまたひとつなくなってしまうような気がします。
 それともこれからの「神」は、自分の手を汚し世界を作る必要はなく、マウスとコントローラーがあればいいのかな?

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