まぶたの向こうに

こどもって面白い

 梅雨の終わりの雨は激しい降り方をするとはいうものの、ここ連日の雨の降り方は梅雨の雨を形容する「しとしと」とは程遠く、まるでスコールのように激しいどしゃ降りだ。そしてそんな中、これまた激しく過剰なプレイスクールのキャンプ&お泊まり会が行われたのだった。

 プレイスクールの小学生クラスでは、一学期に一度ずつ一晩だけのキャンプやお泊まり会をしている。普段の生活では、宿題や夕食など時間に追われた中で暮らしているこどもたちをこの時ばかりはそんな時間の縛りから自由にしてやろうという意図もあり、夕食を食べたくなかったら食べなくてもいいし、寝たくなかったら寝なくてもいいということにしてある。そして、そのあたりの自由さをこどもたちもよく知っていて、この日は一泊分の必要最低限の荷物と過剰な量のおやつと過度の期待感をリュックにつめてやってくるのだ。

 「今日、徹夜すんねん!」と意気込みだけは十分な低学年たちは、夕食を食べたとたんに普段の規則正しい生活リズムに根負けしてかわいい寝息をたててしまうこともあるが、中には眠い目をこすりながら明け方近くまで必死で起きている子もいる。テスト勉強でもないのに、なぜ必死で起きていなければならないのか理解に苦しむが、そんな子も火の周りで騒ぐだけ騒いでいて静かになったなと思ったら夢の世界に片足突っ込んでいたりする。そしてそんなときのこどもたちは夢遊病者のように奇妙な言動をしたりするのだ。

 今回のキャンプでも、明け方まで頑張っていた男の子がひととき寝てから起き出して来て、ほとんど脳ミソが回っていないままにリーダーにこんなことを話し始めたのだった。

「夜にな、この窓ガラスに『ガンモドキ』がとまっててん」「なっ?何ぃ?ガンモドキ…」「うん、ガンモドキがいてん!」「そっ、そうか?ガンモドキがいたか…」 はたして「ガンモドキ」とはどのような虫なのか? もしおでんに入っているガンモドキに翅が生えているような形態ならかなり気色悪いし、そんなんが窓にとまったら油でぎとぎとになって始末が悪いではないか。

 夜遅くまで起きていたい、徹夜がしたいというこどもたちの気持ちは、いつもはそれだけ時間に追われて生活しているということの裏返しでもあろう。どうしても大人は明日のことを考えて、早く宿題しなさい、早くお風呂に入りなさい、早くごはん食べなさい、早く寝なさいとこどもたちを時間で動かそうとするものだ。当然、こどもの成長を考えると毎日夜更かししていてもいいわけはないが、たまにはおまつりのように非日常のときがあってもいいのかもしれない。

 しかし、こどもの徹夜願望はそれだけが理由ではないだろう。そんなにまでしてこどもたちは起きていたいのは、きっとこの世界が魅力的すぎて、ひとときも寝るのがおしいということなのではないか。世界がそんなに楽しいなんて、ほんとうらやましい限りではないか。大人になってしまうと日々の生活では刺激を感じなくなってしまうものだが、彼らにとっては日常でもわくわくどきどきのテーマパークにいるようにものなのだ。瞼を閉じたら夢のテーマパークの営業時間終了なのだから、何としても瞳を閉じてはならないのだ。

 そんなこんなで雨の中繰り広げられたキャンプとお泊まり会も何とか無事に終わり、翌朝こどもたちはすすで黒くなった顔と泥だらけのカッコウで帰って行った。ちなみに世にも奇妙な虫「ガンモドキ」を発見した男の子は、すでに帰る頃にはそんなことを発言したことすら忘れていたのだった。あぁ見てみたかったなぁ! 翅の生えたガンモドキ! 次のキャンプのときにも出たら、捕まえて大根といっしょに炊いて食べてみようか…などと睡眠不足の重いまぶたの向こうで妄想するボクなのであった。

(2010/08月号)

蛇足
 「アカン!眠たすぎる…ちょっと走ってくるわ」と眠気覚ましにグランドを走る出すこども、火の回りでリーダーの膝の上で半分白目をむきながら寝ているこども、リーダーたちはひとりまたひとりと睡魔との戦いに敗れて寝息を立てるこどもたちを寝床にいざないます。 
 そして東の空が白白と明るくなるのを見届けて最後のこどもが力果てる頃、最初に寝たこどもたちが起き出してくるのです。多勢に無勢とはこのこと…とほほ!

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