この春もプレイスクールを卒業する六年生たちと旅に出た。恒例の卒業旅行「どんタッチ!」だ。今年は土佐高知の桂浜を最終目的地に子どもたちは四つのグループに分かれて旅をした。リーダーもついては行くが、基本的には子どもたちが自分たちですべてを決めてもらうことにしているので、毎回なかなかの珍道中だ。
もともとどんタッチは、子どもたちに自分の足で世界を歩いて行ってもらいたいという願いを込めて始めたプロクラムだ。JRの「青春18きっぷ」を使った鈍行の旅、始めたころにはムーンライト号という夜行の普通列車がいくつかあったので、これを利用して宿代を浮かすという貧乏旅スタイルになった。今回久しぶりに行った高知へも昔はムーンライト号が走っていたし、帰路には大阪までのフェリーの二等船室でごろ寝で帰ってきたものだ。ところが時代とともにムーンライト号もフェリーもなくなり、いまでは夜行の高速バスしか選択肢がなくなってしまった。確かに今の高速バスは三列シートでびっくりするくらいリクライニングもして快適だけれど、ただの移動手段という感じがして、フェリーでの船旅といった旅の楽しみみたいなものは感じられない。
さらに最近ではインターネットがどんタッチの旅を変えているような気がする。今では行先について出発前に念入りにググって、実に立派な旅行プランを作ってくる子どもたちがいる。何でも調べられるいい時代になったものだが、反面失ったものもあるのではないか。どんタッチを始めたころには、旅行雑誌程度の知識しかないままに出かけ、着いた駅の観光案内所に飛び込んで情報をもらって面白そうなところに行ったりしていた。もちろん土地のひとに道を聞きながらの右往左往の旅だ。現地の生の情報をもとに、わからなかったらとにかく人に聞く。それは今の時代にこそ、とても大切なことのような気がする。もちろん事前にネットで調べた情報の方が正確かも知れないけれど、旅行プランを作ってその通りに動くことは旅ではなく、情報の確認作業に過ぎないのではないか。
もちろん調べた通りにうまく行くことはないので、今回も目的地までの行き方がわからず子どもたちが困る場面があった。近くにインフォメーションがあったので、そこで聞くことになったのだが、「お前、聞いて来いよ」「えっ、オレ…いやいやお前の方がわかってるやろ」「いやいやお前」「お前の方が…」まるでダチョウ倶楽部のネタのようなことをしているのを見かねた子が「まどろっこしい奴らめ。よし、オレが聞いてくる!」と男前な言葉を残してインフォメーションに向かった。カウンターまで進んだ彼は突然踵を返して戻って来るではないか。そしてひとこと「なぁなぁ、なに聞くんやったっけ?」ドリフやったらみんなひっくり返るところ、結局みんなで聞きに行って無事行先にたどり着いたのだった。実はひとに聞くことだってたいへんなのだ。
きっとこれからは世の中、もっともっと便利になるのだろう。旅だけじゃなくて、生き方すらAIが道筋を見つけてくれるかも知れない。でも危ないのは決められた道筋に乗らなければならないと思い込むことだろう。外れたり迷子になることで見つかる違った道も楽しめる心を持つことがきっと大事なのだ。
よし、どんタッチをもっと迷子の旅にするために、集合当日した時に始めい行先を告げるというのはどうだろう。なに? そんな状況でもこっそり持ち込んだスマホひとつあれば難なく乗り越えられるって! 神さま、スマホさま、AIさんの言う通り!? う~んこれじゃ人生の旅も危ういなぁ…
What important is not where you reached but how much fun thing you accomplished in your travel. (Steve Jobs)
どこに着くかが大事なんじゃなくて、その旅の途中でどれだけ楽しいことができたかの方が大切なのさ(スティーブ・ジョブズ)
(2019/05月号)
蛇足
最初は見知らぬひとに話しかけることすらできなかった子どもたちも、帰る頃にはもの怖じせずにコミュニケーションできるようになるものです。「どんタッチ」を経験した子どもたちが、じぶんので自分の人生を切り開いていってくれることを願っています。便利さや機械になんか負けるな!
ちなみにどんタッチのような旅を家族でされた方がいらっしゃいましたが、我が子の計算能力のなさやものごとの決断力のなさに愕然として暗い空気の旅になってしまったとのこと。もし行かれる時にはご注意のほどを。