深夜タクシーから見えてくること

こどもって面白い

 夜も夜中の一時過ぎ、あちこちから「タクシー乗りませんか?」「一輪車タクシーいかがですか?」「1回100ピーだよ!」という声が聞こえる。しかし、だいたいタクシーというのは必要に迫られた人が乗るものであって、向こうから売り込みにくることはほとんどなく、その様子はまるで嵐山の人力車が観光客を呼び止めている景色に似ている。

 今夜は小学生の発明クラブのお泊り会が行われている。子どもたちが楽しみにしているワンナイトだけのプログラムだ。ここ何回かのお泊り会で男子たちに流行っているのが、工事用の一輪車(手押し車)をタクシーに見立てて他の子どもをお客さんにして園庭を走り回るというタクシーごっこだ。しかもちゃんと会社組織になっていて社長以下ドライバーがいて、小さい子どもたちは営業でお客さんを集める係になっているらしい。その子たちが「カイシャのために頑張らないとね」なんて話しているのを聞くと会社に対する忠誠心は健在で、まだまだジャパニーズビジネスマンは再生産されていると感じてしまうのだ。

 今回のお泊り会ではプレイスクール銀行発行の発明紙幣100ピーがリーダーの部屋の奥にある造幣局(コピー機ともいう)で印刷され、これを使って自分たちで作ったごはんを売り買いしたりするのだ。そしてこのお金がそのあとタクシーにも利用されることになったわけだ。しかし日銀の様にジャバジャバ刷り続けるというわけにはいかないので、市中に出回る紙幣には限りがある。しかも人口も少なくマーケットも小さく、一般人民は最初に手にしたお金以外にお金を稼ぐ手立てがないため、だんだんと支出を控えるようになる。

 そこでなかなかお客さんが集まらないタクシー会社は知恵を絞ることになる。「そうだ。みんなが乗りやすいようにするため値下げしよう!」いままで一回100ピーだった料金がいきなり2回100ピーと大幅50パーセントもディスカウントされることとなった。これに反応して最初はなけなしのお金で乗っていた子どもも、いよいよお金が底をつきだすとまた財布のひもが固くなる。タクシー会社は暇になって空車のタクシーだけが園庭を走り回る状況となったのだ。おぉっこれこそまさにデフレ、しかもどんどん悪循環になっていくという世にいう「デフレスパイラル」そのものだ。

 かたやタクシー会社はぼろ儲けで、大きなダンボールの金庫の中にはお金がどっちゃりと貯まり続ける。何せタクシー会社以外に産業がないという実にとんがった産業構造のため、タクシー会社の一人勝ち、まるで国営企業はたまたGAFAM状態である。しかも車両購入費や燃料代、宣伝営業費などの支出がないので貯まったお金は出ていかない。この会社の社長は律儀な性格で会社の金には手を付けない公私のけじめがきちんとした人物。すると貯まりまくったお金は手を付けられない聖域となってしまい、いわゆる内部留保ばかりが増えていく状態。何やら日本の大手企業さんのようでもある。

 お金を回して景気をよくするということにこの会社幹部が気が付いていたら、新規事業でひとを雇って貯まったお金の再配分もできただろう。例えば彼らが大好きな砂場に大きな砂山とダム湖を作るといった公共事業や、サイコロ転がす賭場やじゃんけんで買ったらお金がもらえるようなカジノで盛り上げるとか…あれっ?これって日本でやってたりこれからやろうとしていることじゃないの?

 翌朝、一輪車タクシーを元あった場所にきちんと納車して、夜勤明けのタクシードライバーたちは帰っていった。さて次のお泊り会のときには日本の景気はどうなっているんだろうと、ボクは彼らを見送りながらほぼ貫徹の回らない脳みそで考えていたのだった。

(2019/03月号)

蛇足
 小学生クラスでは一学期に一度、ワンナイトだけのキャンプやお泊まり会を行っていました。土曜日の午後に来て、ひと晩思いっきり遊んで、翌朝には解散するという子どもたちにとってはパラダイスのようなプログラムです。しかも起きていたかったら徹夜してもいいという子どもたちにとっては天国、そしてわれわれリーダーにとっては地獄のようでもあります。でも家庭や学校ではできないことができる場でありたいという思いだけなので、決して悪い子にしようなんてことはこれっぽっちも思ってませんから。

タイトルとURLをコピーしました