じめじめとした梅雨の季節がやってきた。湿度が高くなるにつれ、プレイスクールを取り巻く森には何やら甘いような匂いが漂い出す。何かが発酵しているのか、樹木の花の香りか、それともカブトやクワガタが集まる樹液の匂いか…。そんな中、毎週土曜日の小学生クラスのリーダーたちは、祈るような気持ちで週末の天気予報を眺める日々なのである。
♪えんやこらせぇ~ 冒険のリーダー 病にするにゃ 雨の三週も降ればよい さのよいよい…♪
と昔からの歌にもあるように(?)、いつもは元気な子どもたちも二週も雨が続くとさらにウツウツとした力に満ち満ち、三週目ともなるとその矛先はリーダーに向かうという恐ろしい事態となるのである。パンチ&キックの攻撃をなさった後は、雨が降るのはお前のせいだといわれのない因縁をおつけのなったりするのである。
さらにこの時期にリーダーたちを悩ませるのが、こんな季節なのに冒険&発明クラブのワンナイトキャンプ&お泊まり会があったりすることなのだ。他の行事との関係でそんな頃になってしまうのだが、この日ばかりは何かをいけにえにささげてでも晴れてほしい願うのだ。
「今晩、徹夜するも~ん。ゼッタイ寝えへんねん。朝まで起きてるねん!」と強い決意でやってくる子どもたち、しかし最後まで生き残れるのはわずかな子どもだけなのだ。だいたい毎日八時には寝ているというのだから、夕食を食べてお腹がいっぱいになり、森の中も暗くなってくる頃に最初の睡魔がやってくる。ひと時して夜のプログラムでヘッドランプの明かりを頼りに森を探検したり、グランドでサッカーをしたりした後ほっこりした頃に第二弾の波がやってくる。そして日付変更線の頃、夜食のラーメンを食べ終わると最大の睡魔のピークが子どもたちを襲うのだ。さらに丑三つ時、焚火で串刺しにしたソーセージをあぶって食べたりしていると、瞼は重力に逆らえなくなってくる。(…あれっ?何か食べてばっかりやな…) ここでリーダーがひと言「なぁ、もうそろそろテント入ったら?」引導を渡すようなこの言葉にうなずくのか、それとも目を覚ますのか、ここが思案のしどころ我慢のしどころなのである。
そんな苦難を乗り越えて、明け方しらじらと明るくなる頃まで起きているのはほんの少しの選ばれし者だけなのだ…と、しかしなぜこれほどまでに子どもたちは起きていたいと思うのだろう。ラーメンが食べたいから、ソーセージにありつきたいから、いやいや普段の生活の中では「早く宿題しなさい、早くごはん食べなさい、早くお風呂入りなさい、早く寝なさい」と大人の『早く早く攻撃』にやられっ放しの子どもたちの、一夜限りの夢物語なのかも知れない。キミたちの願いを聞いてはやりたいが、どうしてリーダーもなかなかたいへんなのだ。だって最後の子どもが寝たころには、最初に寝ていた子どもが目を覚まして起き出してくるという、結局は寝るに寝れない一夜を過ごす羽目になるのだから。
ところで先日テレビで、リーダーたちに安眠が戻って来るのではないかと思われるニュースが流れていた。この6月から法律が変わって、夜間(午後8時~午前8時)にはペットの販売をしてはいけないことになったのだそうだ。明るい店内ではペットの睡眠が妨げられ、睡眠不足になる可能性がある。特に生まれて間もないペットには十分な睡眠時間を確保しなければならないからというのがその理由なのだそうだ。ペットですらこれだけの配慮が必要なのだから、キミたち子どもたちが夜遅くまで遊んでいるなんて言語道断、いい子は晩ごはんを食べたらすぐにテントに入って寝るようにしましょう!…でもそんなこといったら、雨でウツウツしている子どもたちからはパンチとともにこういわれるんやろなぁ。
「何っ?オレたちはペットなんかじゃないやい! そんなこといってるリーダーは噛みついてやるぅぅぅっ! ガルルルルゥゥゥゥゥ~ッ!」
きゃ~っ!助けてぇ~っ!
(2012/07月号)
蛇足
少し古いデータ(2017年)ですが、日本では年間平均降水日数は124日(34.09%)、つまりは3日に一度は雨が降っていることになります。プレイスクールの場合はこれが毎週土曜日に当たっちゃうということが大問題なのです。梅雨時はキリキリと痛む胃を押さえつつ、何度見ても代わり映えのしない天気予報を祈るような気持ちで確認したりするのであります。まぁ最後は開き直って、雨もまた楽しとばかりビチャビチャになって遊んだりするのですが…お母さ~ん、梅雨時のお迎えのときはお着替えも持ってきてくださいね!