ふうちん改造計画

こどもって面白い

 「仮面ライダー本郷猛は改造人間である。」このナレーションが流れる中、手術台に縛りつけられもがく主人公の映像で始まるオープニングは、こどもだったボクの記憶に深く刻まれている。ひょんなことから、この映像と同じような経験をすることとなった。人生初めての手術台デビューだ。しかもまさかの心の蔵!…どうせお前のことだから心臓に生えた毛でも抜いてもらったのだろうという声が聞こえてきそうだが、いや実はこう見えて意外とデリケートなのである。まぁ本人もそんな訳ないと思っていたのでちょっとビックリしたというのがホントのところだけれど。

 点滴台片手にガラガラと歩いてハイブリッド手術室に到着。ドアが開くと、およそテレビドラマで見慣れたような手術室ではなく、寝るように促されたやたら狭い処置台の周りをカートに乗せられたさまざまな計器が取り囲み、足元の方には100インチはありそうな巨大なディスプレイが天井から知吊り下げられている! おぉっ! これはまさしくナンチャラ研究所ではないか! ひょっとしてオレはこのまま仮面ライダーに改造されるのかと考えただけで、たぶん20ポイントは血圧が上がったはずだ。

 処置台の回りの計器から生え出た色とりどりのコードの先のセンサーらしきものが次々と身体に装着される。体中からコードが…まさしくSF映画そのものだなどと意外と冷静に見ていたのだが、おひとりちょっとあわてん坊なドクターがおられ「あれっ? これはこっちやったっけ?…あっこれが先か?…」などとブツブツ言うものだから、ここでまた18は血圧が上昇したに違いない。

 ハイブリッドなんちゃらとは、実際に身体の中の映像を見ながら手術をするのだそうだ。きっとドクターはあの巨大な画面を見ながら血管の中に入れた管を操っていたのだろう。ドクターがAボタンBボタンに十字キー付きのコントローラーを握っていたのかどうかは定かではないが、それってほとんどテレビゲームではないか。とすれば、これからはゲームのうまい奴がいいドクターになるのか、ゲームばっかりしてたら将来ろくな大人にならないぞなんていう脅しはもうきかないのかなどと鎮静剤で遠のく記憶の中で考えていたのだった。ただひとつの気がかりはプレイヤーのドクターが発する「あっ!」という言葉とともに、大画面にGAME OVER!の文字が出るのではないかということ…あぁ25ポイント上昇!

 現代の病院は高度な医療システムによって差支えられており、もちろんそのおかげでたくさんの人たちが救われているのだけれど、反面、医療従事者にとって患者は生身の身体としてではなく検査数値の集合体や画面に映る画像としての存在でしかなくなる。ここが痛いと訴えても「おかしいですねぇ。検査の上では問題はないのですが…」と生身の声は数値にかき消されてしまう。もちろんこれは病院だけの話ではなく、ボクたちだってこどもってこんなもんだとか、こうあるべきだとだとか、高名な先生がこう言っているからとかいった色メガネには気をつけなきゃいけない。目の前の人間をしっかり見るって実はとっても難しいのだ。

 ところで、入院患者はバーコードのついた手錠…いやいやリストバンドを付けることになっていて、検査室などで腕を差し出すとこれを機械で読み取ってピッ!と受付が完了するのだが、この時ばかりは自分がコンビニの商品にでもなったかのような感じがして、ひょっとしたら受付の画面に自分の値段が表示されていたらどうしようと心配になってしまったのだった。ええっ、オレってそんな安いの? えっ見切り品!…あぁまた血圧が!

 おかげさまで処置の翌日にはすっかり元気になり、あまりのヒマさと運動不足にベッドサイドでスクワットしてたら「どっ、どうしたんですか?」と看護師さんが跳んで来た。あっしまった! まだ心電図ついてたんやった。ナースセンターのモニターの数値が急に上昇したのにあわてて駆けつけてくれたのだった。おまけに急に運動したものだから膝を痛めるという相変わらずのお馬鹿さ加減。残念ながら毛抜きくらいの処置では心は入れ替わらなかったようでありました。う~む、改造失敗かっ!

(2020/03月号)

蛇足
 前回に引き続き仮面ライダーつながりということで失礼いたします。
 後日、知り合いのお医者さんにゲームの話をしたら、やっぱりリアルに手先の器用さが大事だとおっしゃっておりました。縫合したりするのは手の感覚が大切、コントローラーじゃできません。そういえば発明クラブの卒業生に医学部に行った子が何人かいたりするので、今度の改造計画の際には彼らに頼んでみようかな。えっ? 産婦人科に小児科…うーむ、○△□?

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