戦うべき敵はどこにいる!

こどもって面白い

 男の子がY字になった木の枝を頭の上に持って自慢げにいった。「見て見て!ほらっ仮面ライダーカブト!」「すご~い、強そうやなぁ。なぁなぁもうすぐカブトが終わって新しいライダーになるって知ってる?」「うん知ってる」「あんなぁ、今度のライダーってバイクやなくて電車に乗るらしいで!」「えっ!?…」昨日ネットで仕入れたばかりの情報をこれまた自慢げに話したら、その子は明らかに困惑の表情を浮かべて首を傾げた。

 「電車って…?△○■??…」 きっとその子の脳裏には、電車の中でネクタイ姿のサラリーマンに混じって仮面ライダーがつり革につかまって揺られている姿が浮かび上がっていたのだろう。確かにこれはイカン! 悪者をやっつけに行くヒーローの姿ではない。

 18代ライダー「仮面ライダー電王」の名誉のためにいえば、電車といっても「デンライナー」という時空を越えられるスゴイ電車なのだそうだ。電王のスタイルもいままでの昆虫系ではなく、桃太郎がベースになっているらしいのだが、バイクを捨てて電車に乗り換えたというのはやはり環境問題が背景にあるからなのかとか、そういえば都市部で新しい交通として路面電車の導入が検討されているとか、バイクじゃないからライダーは自分では運転しないらしいとか、やっぱり「○×ライナー」って通勤快速みたいに聞こえるなぁとか、沿線以外に悪者が現れたら現場まではどうやって行くのかとか、駅からは徒歩かそれともママちゃりなのか、桃太郎ということはサルやキジも出てくるのかとか…28日の放送を見る前からもう頭の中は?マークが渦巻いているのである。

 これだけの疑問がわき上がるというのはきっと1972年に初代ライダーが誕生してから、男の子は必ずやその成長期に於いて何らかの形で仮面ライダーの洗礼を受けているからなのだろう。自転車に乗りながら変身ポーズをしようとして危うく転けそうになったとか、壁に向かってライダーキックをして足を痛めたとか、ライダースナックの食べ過ぎで胸焼けがしたとかいうことは、男の子ならば当然(?)経験しているはずなのである。

 大きくなりたいとか強くなりたいという願望をヒーローに託して、男の子たちは成長するのだろう。そしてヒーローはその時々の時代の雰囲気をにじませている。今回のライダーシリーズの敵は、実体のないエネルギー体「イマジン」というのだそうだ。きっとその大ボスがあやつるザコ怪獣と戦うという設定なのだろうが、目先の細かい問題に翻弄されつつ、その奥にいるであろう姿の見えない敵に届かないというのは、何やら今の時代を象徴しているようである。

 それにしてもわれわれにとって「イマジン」はジョン・レノンの歌声とともに平和を象徴するものだ。それが戦うべき敵とされていることにはまったく納得ができない。それともすでにここにも見えざる敵の意図が隠されているのだろうか? 

(2007/02月号)

蛇足
 仮面ライダーシリーズは1972年の放映から50年を数え、登場するライダーも最新作で39代となりました。
 仮面ライダー電王(2007-2008年)では、悪者が過去に戻って時間を改変し、自分たちの好ましい世界に作り変えるというこどもには難しいテーマが隠されていました。そのため表面的にはこどもウケのするキャラクターやコメディタッチの話にしてあったといいます。またシリーズの中では怪人による殺人描写も少なく、過去に死んでも誰かがその人のことを覚えていて犯人の怪人が殺られると生き返るというルールもあるなど、ある意味平和なシリーズだったようです。キャッチコピーは「時を超えて 俺、参上!」、「時の列車デンライナー、次の駅は過去か?未来か?」
 ちなみに現在放映中の「仮面ライダーギーツ」では戦いの場はとうとうゲームの世界になっています。ある日突然、「世界を作り変えるゲーム」に巻き込まれた主人公はこう告げられる。「おめでとうございます。厳正なる審査の結果、選ばれたあなたは今日から『仮面ライダー』です。デザイアドライバーを装着してデザイアグランプリにエントリーしてください」むむっ?これってゲームするのも止めるのも本人の意思次第か…その昔、初代仮面ライダーは有無を言わさずショッカーによって改造人間とされるという運命なり宿命なりに翻弄されつつ、止むに止まれぬ己の存在をかけて敵と戦ったのではなかったのか。
 しかも最新作では、ゲームに勝てば「人々を救い街の平和を守れるとともに、自分の理想の世界を叶える権利ももらえる」のだという。公のためだけではなく、自分も見返りのあるが今様だ。ワーク・ライフ・バランスとでもいいましょうか、大昔のように「人さまのため、世間さまのため」汗するなんてウケないんでしょうね。
 しかし、主人公がゲームを途中で投げ出してしまったりすることはないのだろうかなどと、ゲームもしないし番組を観てもいないボクはいらぬ心配をしてしまうのでありました。

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