チャリチャリ行こうぜ!

アドベンチャー

 今年も恒例になっているサイクリングに行ってきた。プレイスクールから嵐山まで、木津川から桂川に整備されているサイクリングロードを経由する片道約28キロ、往復60キロ弱のコースだ。信号もなく高低差もそれほどないコースなので、大人ならゆっくり走っても2時間もあれば着くのだが、子どもたちにとってはちょっとした小旅行なのだ。

 朝8時、集合場所に子どもたちが集まってきた。「おっ新車やん。カッコええなぁ。去年はめちゃ小っちゃい自転車やったもんな」「うん、でもサドル一番下げても足がギリギリやねん」今年は4年生から参加できるのだけれど、だいたいこのくらいの学年になると自転車の買い替え時期になるようで、毎年誰かはさっそうと新車で登場するのだ。「足がつかへんってか…止まるときにお尻をサドルの前に持ってくるようにしたらええで」というボクの助言を受けてその子がサドルの前に降りようとすると、何と自転車のフレームがハンドルに向かって斜めに高くなっているではないか。チ~ン!…いてててっ!

 いざ走り出すとサイズの小さい自転車に乗っている二人組が最後尾になった。このお二人、普段からのんびりまったり系の人たちなので、隊列に着いていこうとかいう意識はまったくなく、ゆったりとペダルこいでいらっしゃる。まるで家の近所を友だち探して流しているって感じだ。のんびり走っているわりに前を子はビックリするくらいの回転数でペダルをこいでいる。変速機は使えるけど面倒くさいのだという。後ろの子にいたってはまったく変速機をつかう気配がない。右手グリップ内側にあるリングを回すタイプの変速機なのだが、固くて回せないらしい。しかも普段はあまり自転車に乗らないらしく、フラフラと走って何だか危なっかしくて仕方がない。走り始めてすぐにふらついて転びそうになったときに、対向からそろいのレーシングスーツに身を包んだ集団が走ってきて危うくぶつかりそうになってヒヤヒヤした。何がこわいって、このサイクリングロードには本気の自転車乗りさんたちが高級ロードレーサーに乗ってびゅんびゅん走っているのだ。中には一台100万円くらいするようなものもあるらしいので、そんなのと事故でもしたら恐ろしいことになる。ましてやそんな方の隊列の玉突き事故を誘発すればベンツ一台全損廃車に等しい…恐すぎる。

 結局、のんびり屋さんたちは4時間ほどかけて嵐山に到着、お弁当を食べてちょっとだけ嵐山観光をしてから帰路につくことになった。最後尾のお二人は帰り道はほぼ無言で、修行僧のようにもくもくとペダルをこいでいた。この小さい自転車でよくここまで来たもんだ。きっと大人のボクの三倍くらいはこいでいたに違いない。自転車は子どもに羽を与える。行動範囲は明らかに広がり出会う世界も広がる。もちろんそれに伴って危険も増すけれど、自分の脚で世界を広げていくことはとても大切なことだし、大人しては多少目をつぶって見守るしかないのかも知れない。

 「あの道路の下をぐぐったらゴールまで最後の坂道やぞ!もう少しでゴールや!頑張れっ!」ゆるい坂道を登っているとき、それまでずっと最後尾にいた子が前の子に追い付いて並んだ。その時だ。前を走っていた子の顔色が変って俄然ペダルをこぐ足に力が入った。抜きにかかった子も負けじとスピードをあげる。あれあれいつもまったりと遊んでいる彼らにもプライドとライバル心が潜んでいたのだ。しかしあと数百メートルでゴールという今になってやる気を出さないで、最初からちょっとでいいから出してくれていたらあと30分は早く目的地に着いていたのになぁ。ゴールした二人はとても疲れた顔をしていたけれど、きっと心の中では達成感と自信を感じていたに違いない。来年は新車を買ってもらってまたサイクリングに行こうぜ。

(2016/11月号)

蛇足 住んでいる地域によって差はあるのでしょうが、子どもがつるんで自転車で走り回っている姿を見ることも少なくなったように思います。少し古いですが、警察庁の調べ(2017年)によると小学生の場合、自転車乗車中よりも歩行中の死傷者数のほう多いようです(特に一二年生)。中高生になると自転車での事故が急増しますが、これは通学などで自転車に乗る機界が増えることによるものでしょう。割合から見ると実は自動車乗車中の事故のもかなり多ので自転車だけが危険とは言い切れないとは思いますが…だからといって自転車が安全というわけではありませんし、積極的に自転車には乗らせないという意見もネットには見られますが、子どもたちの世界を広げる機会とリスクをどう考えるのかは悩ましいところですね。
「子供等の交通事故について」警視庁 https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/bunseki/kodomo/290323kodomo.pdf

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