エビみたいなカニ

アドベンチャー

 田んぼの用水路に子どもの声が響く。「さぁ来い来い…もうちょっと…つかめ、しっかりつかめ! よし今だあげろ! やったぁ~っ! でかいのゲット!」今度は少し離れたところにいた女の子が「きゃぁ~っ! 釣れたぁぁ…だっ誰か来てぇ! わたしザリガニ触れないのぉぉぉっ!」「こっちも来たぞぉぉっ! う~ん、うまそう!」 何っ?ザリガニを見て美味しそうだと…実は今日は冒険クラブでザリガニ釣りをして、あろうことかそれを食べてしまおうというブログラムなのである。竹のさおにたこ糸を結び、エサのスルメをくくりつけたら仕掛けのできあがり。それをザリガニの鼻先に落とししっかりとハサミでつかんだら引き上げるという昔からのやり方だ。

 普段はひっそりとした用水路で子どもたちが遊んでいるものだから、通りかかったおじさんも足を止め「ほら、こっちの方がでかいぞ」とアドバイスしてくれたりした。その方と話をしていたら「昔はよく捕って食べたものや」とおっしゃっていたので、その昔はザリガニを食べるなんてことも普通のことだったのかも知れない。もともとアメリカザリガニは食用ガエル(ウシガエル)の食料として導入されたものが日本各地に広がったといわれている。実はひとさまの食用として輸入されたウチダザリガニという種もいるのだが、これは北日本中心に生息していて、関西ではそんなにメジャーじゃないらしい。カエルのエサだろうが、これがどうして食べるとちゃんとおいしいのだ。

 バケツにどっちゃり入っているザリガニたちは上へ下へと重なり暴れ、まるで地獄絵のよう。そんなバケツを持って意気揚々とプレイスクールに戻り、鍋にお湯を沸かしてしっかりとゆで、背ワタを取ったらお口の中へ…「う~ん! ザリガニっていうけどエビの味やん!」「うっうまい!」「ザリガニ、サイコー!」 おそるおそるひとつ食べた子どもは、そのおいしさに開眼し次から次へとむさぼるように食べ始める。またたくまにバケツ2杯のザリガニが子どもたちの胃袋の中へ納まってしまったのだった。想像してみてほしい。小学生たちが赤くゆであがったザリガニを我先に争い食べているさまを…それこそ地獄絵である。もちろんボクたちは無理強いして食べさせているわけでもなく、ちゃんと別のおやつも用意してあったことは、この場をかりて強調しておきたい。プレイスクール以外でザリガニを食べることなどないだろうけど、食の幅を広げることは彼らの人生において決して悪いことではないだろう。

 以前、ザリガニ釣りをしていたときに子どもからこんな疑問の声があがった。「なぁなぁ、ザリガニって川の生きものやろ、それがなんで海にいるイカがおいしいって知ってるの?」 その時は「なんでやろなぁ」ととぼけるしかなかったが、確かにスルメの香りに食欲がわくのはそれを食べたことのある人間の価値観でしかない。時として子どもたちはこんな鋭い言葉を発してくれる。さて何と返そうか。「それはきっとそのザリガニがのんべえやったからや。ほら八代亜紀の歌につまみはあぶったイカでいいっていうのがあるやろ」アカン、昭和過ぎる…

(2017/11月号)

蛇足 海外ではザリガニを食べている国も多く、中国、アメリカ、フランス、バルト三国などではとてもポピュラーな食材なのだとか。解禁日が設けられて、その日に合わせてザリガニパーティーやザリガニまつりが行われているところもあるようです。しかし、実際に食べてみるとわかることなのですが、ボクたちが捕っていたアメリカザリガニは食用部分がとても少なく、捕まえる努力に見合わないことが一般化しなかった利用なのかも知れません。

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