丑三つ時、子どもたちは電動糸のこの夢を見るか

こどもって面白い

 ガガガガ~ッ!ポキッ!…「あっ!」「ほらぁ~、ちゃんと押さえてへんから糸のこの刃が折れるんやんか。もう今晩は止めとき」「…う、うん…」その隣の糸のこではひたすら組木を切っている女の子の姿がある。「もうず~っと糸のこしてたい!」「でももう遅いし今日はそこまでな」「うん、続きはまた来週の発明クラブのときにするわ」

 そう今日はもう遅い。いや正確には丑三つ時を回っているのだから、深夜なのである。この深夜に小学校低学年の子どもたちが糸のこに向かって作業をしているのである。誤解のないように言っておくが、無理矢理に子どもたちを深夜労働に駆り立てているわけではないし、ましてや女工哀史では断じてない。子どもらが自分の意思で作りたいというから、かような状況が生まれてしまっているわけである。子どもらに付き合わされているのはこちらの方なので、深夜労働させられているのはわれわれなのである。

 今夜は小学生の発明クラブのお泊り会なのだ。一学期に一回ずつ、お泊り会とキャンプをしているのだが、とにかく子どもたちは異常ともいえるほどの期待と熱意と大量のおやつをリュックに詰め込んでプレイスクールにやって来る。何たって寝なくてもいいのである。起きていたければ何時まで起きていてもいいのである。普段お母さんに早く寝なさい、と言われ続けている子どもにとってはまさにパラダイスなのである。

 かようなわけで、このような時間にも関わらず工房でもの作りに専念している子どもがいたり、グランドで缶けりや逃走中をしている奴らがいたり、囲炉端の火の回りで王様ゲームと恋バナに花を咲かせている青少年がいたりするわけである。毎晩してたら不良だけれど、年に三回くらいならハレの時間、おまつりである。

 ちなみに「祭り」の本質とは、普段は社会的に禁止されている行為やルールを破ることであったり、度の過ぎた行為や過剰な放蕩、そして「逆向きの行為」といわれる社会秩序の逆転・転倒にあるといわれている。「早く寝なさい」という禁を破り、夜中じゅう大声でわめき騒いだり、一般社会では固定されている<大人⇔子ども>という関係を倒置して大人をおもちゃのようにあつかったりするなど、まさにお泊り会は祭りの本質を兼ね備えた祝祭空間なのである。祭りには社会や人間を「再生」させる力があるといわれているが、子どもにとってこの体験はどんな「成長」の力になるのだろう。

 実は子どもたちにとってお泊り会は楽しい反面、「不安」でもある。一番安心できる家庭から離れて夜を過ごすことは、子どもによってはハードルの高いことだったりする。最初から無理だからとお休みする子もいるし、晩ごはんを食べてから帰る子もいる。最近では自分のケータイから家に電話してお迎えに来てもらうなんて子もいたりする。そんな子どもらもある時から何てことはなかったかのように、夜中のパラダイスを楽しんでくれるようになるものだ。ある時から突然にできるようになる。そんな風に子どもたちは成長しているらしい。

 今回、初めてお泊りできた子どもに帰る時、声をかけてみた。「どうやった?お泊り会」「うんフツーに楽しかったで。夜の肝試しのお化けはめちゃこわかったけど…楽しかった!」こう答えたその子の笑顔は、ひとつ殻を破った自信にあふれていたのだった。もう大丈夫、今のキミならもっと長くお泊りするサマーキャンプもバッチリ楽しめるさ。

 それにしても、このお泊り会の翌朝から丸太遊具ゴンタローの解体作業を入れるなどという無謀な予定を組むのではなかった。おかげでマッサージに行ったものの、三日間は筋肉痛に悩まされることになってしまった。
 フンフンフンッ!ボキッ!…「うっ!」「お客さ~ん、めちゃくちゃこってますよ!」

(2013/07月号)

蛇足
 小学生クラスのキャンプ&お泊まり会は、年3回、土曜日14:00~日曜日朝9:00のワンナイトのプログラムでした。プレイスクールの自由な雰囲気をよくわかっている子どもたちは、ここぞとばかりに宵っ張りに熱を上げ、そのうちに徹夜することが目的になる子もいたりしましたが、そんなことででも子どもたちの自信につながるのであればお安い御用です。…うっ、こっこっ腰が…

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