人間の証明

こどもって面白い

 今年も熱い夏が終わろうとしている。本当に今年の夏は暑かった。毎年、こどもたちとキャンプをしている標高500mの世屋高原でも、今年はいままでにないほど暑かった。でも本当に熱かったのはこどもたち自身なのだった。いつもの見知ったリーダーたちと一緒だとはいえ、親元を離れることに不安を感じないこどもはいないだろうし、初めてキャンプに参加するこどもにとっては「清水の舞台」からバンジージャンプするくらいたいへんなことに違いない。こどもたちはそんな不安を振り払うかのように思いっきり遊び、いろんな発見をしてくれた。初めて手にしたミヤマクワガタ、夜空いっぱいに輝いていた星、漁師さんの船から見た朝焼けの美しさ、丹後の海のしょっぱさ…きっとこどもたちはたくさんの思い出を胸に家に帰ったことだろう。

 毎年のことなのだが、キャンプ中は「無病息災、無事平穏、家内安全(?)」を願って、ヒゲをそらず「願掛けヒゲ」を生やすことにしている。今年もその霊験あらたかな効果のせいか、大きなケガや事故もなく、さらには期間中一度も雨に遭うこと過ごすことが出来たのだった。毎年使っている山間のキャンプ場は、海岸部では晴れていても山では雨降りということもあるくらいのところなので、われわれが高原にいた10日間、一滴の雨も降らなかったというのはほとんど奇跡に近いのだ。昨年は台風の接近で近くの小学校の体育館に避難するという稀有な経験をしたが、やっぱりキャンプはお天気が何よりだ。

 そんなキャンプでのひとコマ。こどもたちのお茶をわかすために、斧を使って薪を割って火をつけていたボクの手元をじっとみていた女の子がぼそっと言った。
「ふうちんって、何年キャンプしてんのん?」
「…う~ん、200年くらいかなぁ」
「またウソやし、もういっつもウソばっかりなんやから!」とあきれ果てた顔でその子は去って行ったのだった。手際よく進む作業をみてそんな言葉が口をついたのだろうが、何年間キャンプしているかなんて考えたこともなかったので、聞かれたボクはちょっと返答に困ったのだった。こどもって面白いことに気がつくもんだ。

 考えてみればご幼少のみぎり、親父と近くの山に遊びに行って飯ごうでごはんを炊いて、そのころ出始めたレトルトカレー(ボンカレー)を食べたのがはじまりで、ボーイスカウトに入ってからはキャンプ三昧だったから、きっとその質問をしたこどもの年の4.5倍くらいはキャンプをしてきたのではないだろうか。その間キャンプ道具はずいぶんと進化したし、ひょっとすると近い将来には太陽光発電付きのテントから電気をとって炊飯器でごはんを炊いて、IHヒーターで調理するなんて時代が来るのかもしれないけど、今のところボクは相変わらず薪でお茶やごはんを炊いていたりするわけで、人類が火を使うようになってから営々と受け継いできたこのアナログな技術こそが実は一番大事なのではないかと思っていたりするのだ。便利さと引き換えに、人間は生きる力を失っているのかも知れない。

 無事にキャンプを終えて家に帰り、久しぶりに鏡を見て驚いた。あごの願掛けヒゲはほとんど真っ白で、まるでお爺さんだ。まぁこどもの年の4、5倍もキャンプしてたら、年もとるわなぁ! このまま白いひげを伸ばして仙人のようになったら、ひょっとして気合だけで大釜のお茶がわくかも知れないと思ったが、そのためにはあと180年くらい修業が必要そうなのであきらめて剃ることにしたのだった。

(2015/09月号)

蛇足
 そういえばその昔、キャンプのことは「野営、露営」などと呼ばれていました。「野を営む」なんて素敵なコトバなんでしょう。昨今のアウトドアブームはまずは道具ありきの物量戦になっていますが、本来は自然と対峙してその豊かさや時にはその厳しさを体感することに意味があるように思うのですが…昨今流行りのグランピングなるものは、テント設営も火付けもなにもさせてもらえなさそうなので、きっとヒマ過ぎて気が狂っちゃいそうなので行かないでおきます。

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