地を均す

キンダー

 「見てみてっ、トンネルできたぁ! シンカンセンがトンネルに入りま~す! びゅゅぅぅ~ん!」」今日も今日とて子どもたちが砂場で遊んでいる。砂山を作ってトンネルと線路ができていく。幼稚園には砂場用にプラスチック製の新幹線のおもちゃがあるのだが、それがなぜか今どき0系だったりするのだ。リニヤの工事も始まろうというこの時代に、あの丸っこくてかわいいやつがこの砂場ではまだまだ現役なのだ。

 本物の新幹線が開通して50年になるという。ボクが小さかった頃、高架の上を轟音と共にパンタグラフから青白い火花を飛ばしながら走り抜けていくその姿は、まさに「夢の超特急」そのものだった。

 開通50周年の新聞記事の中に最初の列車を運転した方の話が載っていた。当時の最高速度は210キロだったが、その日の運行計画ではそこまでの速度は出さない予定になっていたのだという。その頃の車両には速度計がついていて、乗客たちはいつ210キロに達するのかと固唾を呑んで待っていたのだが、いつになってもその時はやって来ない。そんな乗客の様子を車掌から聞いたこの運転士の方は自分の判断でスピードを上げたのだという。その頃には目新しかったデジタル表示が210となるや乗客たちから歓声が上がったのだとか。しかもお客さんが喜ぶようにと、しばらくゆっくり走らせてからまた最高速を出したというからホスピタリティーに溢れているではないか。速く走らせすぎて東京には予定時間よりも早く着いてしまったらしいが、規則がんじがらめの今の時代では考えられない何とものんびりした話だ。安全面からはご批判もあろうが、この運転士さんは人に望まれるいい仕事をしたのではないだろうか。

 仕事について養老孟司氏がこんなことをいっている。「自分に合った仕事なんてものはない。仕事というものは社会に空いた穴なのだ。道に穴が空いていた。そのまま放っておくとみんなが転んで困るから、そこを埋めてみる。ともかく目の前の穴を埋めてみる。それが仕事というものであって、自分に合った穴が空いているはずだなんて、ふざけたことを考えるんじゃないといいたくなる。仕事は自分に合ってなくて当然なのだ。そういう仕事が社会から必要とされているだけで、ただそういう穴があって、それを埋めるというだけ。仕事とはそんなものだ。」世の若者たちは、自分探しから始めて自分に合った仕事を探すことばかりを追い求めているが、自分からの視点だけではなく社会からの視点にも思いを巡らせることが大事ということなのだろう。

 ひるがえって、砂場で遊んでいた子どもたちの新幹線はどんどんと路線を広げ、砂場を飛び越えてグランドにまで進出し、このところの長雨が作った水たまりに突入。ここで新幹線はなぜかブルドーザーに変身してぬかるんだ土を堀りはじめ、穴はどんどんと広く深くなっていくのであった。幼児たちに社会の穴を埋める仕事なぞ望むべくもなく、結局はわれわれが鉄製のトンボをひっぱって地面をならすお仕事をするはめになる。目の前の穴を平らにする、グランドのへこみを直す、これが仕事だと養老先生はのたまうのだが、これってプレイワーカーの仕事? 社会から見ると…あれっ、ひょっとしてボクたち用務員さん?

(2014/11月号)

蛇足
 その昔、プレイスクールの近くに「わたしのしごと館」という施設がありました。莫大な税金を投入した巨大なそれは世の中にどんな仕事があるのかを紹介したり、体験できたりするものでした。そこでもパソコンで設問に応えると自分にあった職業がわかるというものがありました。やってみたら…アナタニアッタショクギョウハ、映画監督、画廊店主、骨董品店主と出ました。これってどれも協調性のないわがままな偏屈親父という感じですね。まっ当たってるけど…

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