玄関の自動ドアが開いて入って来たこどものほとんどが、開口一番「すげぇっ!」「うわぁ、これ何?」という驚きの声をあげる。それを聞きながらボクは、こどものそんな素直な反応に「してやったり」とほくそ笑んでいたのだった。ここはこの街の中央図書館だ。その中にあるギャラリーで、プレイスクールの作品&写真展「ボクたち あそび隊」を開催したときのことだ。図書館の玄関を入ってすぐがギャラリーとなっているので、入って来た人の目にいきなり奇妙な展示が飛び込んで来て冒頭のような反応をしてくれるわけだ。
まず目につくのは壁一面に貼ってある人型だ。これは幼児クラスのこどもたちの等身大の人型で、それぞれに好きな格好をしているものが約50名分ほど展示してある。そして入口には竹のドームが置いてある。中で大人が立てるくらいの大きさで、このドームの外と内側にプレイスクールで遊ぶこどもたちの写真が展示してあるのだ。竹ドームにはこどもが入れるくらいの高さの入口が作ってあって、目ざといこどもはちゅうちょなく中に入って行く。そして内側に貼られた写真を見て「ママ、この子へん顔してる。へ~んなのぉぉっ!」と素直に喜んでくれるすぐ後ろで、お母さんはちょっと困ったような顔をしていたりする。入口の反対側に出口があって、ここをこどもが出てくると今度はダンボールハウスが置いてある。「中に入ってもいいよ」と誘ってあげると、こどもは興味しんしんの表情でドアを開ける。「あっ、そこにゲタ箱も作ってあるからね」というと靴を脱いできちんと棚にしまって中に入っていく。お母さんには「ここに窓もありますよ」と開けてみせると、中からこどもが顔を出して笑いかける。入口のドームからダンボールハウスまで導く、見事な動線! まるでコドモホイホイだ!
それにしてもどうしてこどもって、狭い空間が好きなんだろう。今回の展示で一番こどもたちに人気があったのが、このダンボールハウスだった。多い時には7人くらいものこどもが中に入って大暴れしてくれ、1週間の展示期間の最後まで持たすために毎日補修に補修を重ねる羽目になったのだった。遊び出したら声のテンションもあがってしまうのだが、閲覧室と同じフロアにあるためとにかくこのギャラリーでは騒ぐのはご法度となっていて、不本意ながら静かにしてねと注意せざるを得なかったりするのだった。こんな面白いもん作っといて静かにしてねもないもんだが、いた仕方ない大人の事情というやつもあったりするわけだ。
図書館にはいろいろな人がやってくるので、ずいぶんと昔の保護者の方が思いがけず立ち寄ってくれたりもした。竹ドームに貼ってある写真を見ながら、「懐かしいわぁ。うちの子もこんなことして遊んでたわ。もう来年二十歳になるんよ。ホンマ懐かしいわ」「うわぁ、もうそんな大きなってるんや」なんて会話がとり交わされたりしたのだった。「そやけど、この写真の顔をうちの子のこどもの頃の顔に入れ替えても違和感ないわねぇ…あれっ?ひょっとしたら、うちのアルバムにこんな写真貼ってあったかも!」
その通り! 実はプレイスクールで行われていることは昔も今も大差はないのである。森を走っていたり、川で生き物を探していたり、工房でもの作りをしていたり、友だちと戯れていたり…やっていることはほとんど変わっちゃいない。プレイスクールができて30年と少し、同じことの繰り返しで進歩がないと考えるのか、それともいまの時代でも昔と同じようなことができる環境を幸せと感じるべきなのか。
その元保護者は最後にこんな話をして帰って行った。「もう二十歳にもなるのに、いまだにときどき昔の遊びの話をするんよ。森であんなことしたとか、川でこんなことしたとか。それだけすごい経験やったんやろねぇ」人生、本気で遊べる時ってそんなに長いわけじゃない。ひょっとすると数年なのかもしれない。そのときに思いっきり遊べる環境にいるってことはやっぱり大事なことなんやと、その話を聞きながら感じていたのだった。
それにしても、一番変わっていないのはそんなこどもの遊びに付き合っているボクたちなのかも知れない。「すんません。相も変わらず成長のないことで!」
(2011/01月号)
蛇足
少し前までは、こどもが遊べなくなったというようなことが盛んに言われた時期がありました。でもそれはこどもの育つ環境が変化したことにともなって遊び方も変わったのであって、こども自身が持っている遊びたいという気持ち<遊気>が変わったわけではありません。だってプレイスクールでのこどもたちは、ゲーム機や遊び道具がなくても笑顔いっぱいで遊んでますから!