手のひらの上のブラックホール

こどもって面白い

 さわやかな五月晴れもほどほどにあっという間に梅雨に入ってしまった。季節はどんどん駆け足で進んでいくのに、新型ウイルスについてはいつまでも足踏み状態で、どうやらまたまた緊急事態宣言が延長されるらしい。オオカミ少年のお話ではないが、こんなこと何度もしていたら「緊急」という言葉がどんどん軽くなって誰も信じなくなっちゃうんじゃないか?それにしてもこの緊急ゆるいよね。

 このコロナの影響もあって世の中いろいろと急激な変化をとげている。そのひとつとして学校のデジタル化も急ピッチで進められている。先日、子どもたちに聞いたらもう各自ひとつずつのタブレットが渡されていて授業でも使っているという。楽しそうでいいやんと思っていたのだが、「こないだ男子が授業と関係ないもん観てて怒られたはったわ」と言ってたのを聞いて、先生からはすべてお見通し、デジタル化は効率的な管理もできるということにほかならず、昔のように教科書を立ててその裏でお絵描きしたりして遊んでいる訳にもいかず、何より教科書のすみっこにパラパラ漫画を描くこともできないというきびしい現実を思い知ったのであった。

 令和元年に内閣府が調査したとろによると、10歳未満の子どもたちの57.2%がインターネットを利用しており、平均利用時間は約85分、9歳に限れば101分、もちろんご想像通り年齢が上がるにしたがってその時間は増えていき、高校生では平均250分、しかもそのうち5時間以上というツワモノが30.3%と一番多いというのだ。もちろん通学途中にサブスクで音楽を聞いていたりするのも入ってはいるけど、起きている時間の大部分をネットで過ごしているといってもいいくらいだ。

 ほとんどはスマホでアクセスしているわけだけれど、スマホの恐ろしい魔力が人にどれだけの影響を与えるかについて「スマホ脳」(アンデシュ・ハンセン著)という本に詳しく書かれている。曰く人がスマホを手放せなくなるのは便利なのではなく、スマホというシステムに脳みそをハッキングされて依存症になってしまうからだというのだ。

 人類の祖先は、約20万年前に東アフリカのサバンナで誕生し世界各地に移動していった。その頃の人々は食物を求めて移動しながら暮らしており、平均寿命は30歳足らず、人口の半分は10歳以下で亡くなっていた。生きること、そして子孫を残すことが最大の目的であり、そのために適するように体ももちろん脳も進化してきた。そのひとつに危険なものをいち早く察知する能力がある。草むらに毒ヘビはいないか、ライオンはいないか、小さな変化に敏感でなければ生き残れなかったからだ。

 そして、そこには脳内伝達物質のドーパミンが深く関わっている。これは何に注目し集中するかを選択することで増加し、危険察知だけではなく、例えば目の前の食べ物を見るだけでも増える。大昔はいつ次の食事ができるかすらわからなかったので、目の前に食べものがあれば食べることが生きるための最善の方策だったからだ。次から次へと新しい情報を求めることは、生きるため食べるために理にかなったことなのだ。それはまだ見たことのないもの、新しいものを見たいという欲望になり、それこそが今われわれにスマホの画面をフリックさせスワイプさせているのだ。次のページには何かもっと楽しいことがまっているかも、かわいい写真があるかも、いいねがついているかも…、そんな「かもしれない」「もしかしたら」という期待がわれわれをスマホに向かわせる。

 スマホ依存の生活はさまざまな弊害をわれわれにもたらす。いつもスマホのことが気になって集中力が続かなくなったり、大切なことをハードディスクやクラウドに置いておくことで自分では記憶しなくなってしまうグーグル効果やデジタル健忘、ブルーライトによる睡眠不足、睡眠の質の低下、もちろん圧倒的な運動不足、そして長時間のスクリーンタイムがもたらす精神不調…その昔、「覚せい剤やめますか?それとも人間やめますか?」なんていう衝撃的なCMがあったが、これから調査研究が進むと今のタバコに書かれているような警告表示のように、スマホを起動するたびに「スマホはあなたの健康を害します」なんて警告が必要になるのかも知れない。こんな危険なデジタル機器を小さい子どもたちに持たせるの? 便利なものは「諸刃の剣」、でもこんな人がこんなことを言っている。

 「うちでは、子どもがデジタル機器を使う時間を制限している」スティーブ・ジョブズ


 そりゃないぜ! スティーブ! iPhoneなんていうステキなのを作っておいて!

(2021/06月号)

蛇足
 令和4年度「青少年のインターネット利用環境実態調査」によれば、小学生の97.5%、中学生の99.0%、高校生の98.9%がインターネットを利用していると回答しているので、明らかに利用者の低年齢化が進んでいるようです。小学生から高校生までのすべての年齢で、令和元年からスタートした「GIGAスクール構想」によって個人に配布された端末からの接続が令和3年(2021年)以降急増しています。高校生ではほとんどが自分用のスマートフォン(97.3%)を利用しているようですが、GIGA構想がこどもたちのネット環境を大きく変えたことは間違いありません。
 大人にとっても魅力的なスマートフォンですが、こどもたちが賢く使えるようにするためにちょっと知恵が要りそうです。
 いやいや最近では「スマホ認知症」なんてことも言われだしているから、こどもだけの問題じゃないですが…「あれあれ、ほら、それやん、それ…あぁ思い出せない」

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