リズムは口ほどにものをいう

こどもって面白い

 ♪タン、ツ、タッタ、タンタン! ズンダカ、ズンダッ、ズダンダ、タッタ…ズンダカ、ズンダッ、ズダンダ、タッタ!…プレイルームに大音量のジャンベの音色が響き渡る。音のやり取りを楽しみながらジャンベを打ち鳴らしている子どもたちは、みんないい顔をして手を動かしている。

 南アフリカ出身のミュージシャンでアーティストでもあるジョセフ・ンコシさんに来てもらって、西アフリカの太鼓ジャンベのワークショップをしている真っ最中なのだ。最初はおっかなビックリたたいていた子どもたちも、たたき方とリズムの取り方がわかってきたのか、硬かった表情は笑顔に左右の手の動きもどんどんスムーズになっていくのだった。リズムってすごい!そんな子どもたちの変化を見ながら、あらためてそんなことをボクは感じていたのだった。

 和太鼓やお祭りのお囃子のように決まった楽譜があるわけではないが、最初はジョセフさんのたたくリズムをリピートしながら太鼓になれていき、それからはとにかくたたいてたたいて自分が気持ちのいいリズムを見つけながらジャンベと自分との距離を近づけていく。最後には子どもたちひとりづつが自分のリズムをたたいて、他の子どもたちがそれをリピートしながら順番に回っていくと、冒頭のような感じになるのだ。

 好きなようにたたくということは、言い方を変えれば「自己表現」をしているということで、友だちのその言い分をちゃんと聞いて返すってことは「うんうん、そうだよねぇ」と相槌を打っているようなもので、つまりはここに「コミュニケーション」なんてものが成立していたりするわけだ。みんなの前で自分の言い分を太鼓のリズムに託して「語る」というか、音量的いえば「叫ぶ」のだから、引っ込み思案の子どもやコトバでうまく自分の思いを伝えられない子どもにとっては、いつもとは違う表現が気持ちのいいのだろう。しかもその場のみんなは無視することなくちゃんと言い分を認めて同じリズムを返してくれるのだから、ここでは自分が受け入れられているという喜びも感じているのかも知れない。最後の合図とともにドーン!と締めの音がピタリと決まったときの子どもたちのうれしそうな顔がとても印象的だった。

 実は先月は大人のためにジャズライブをしたのだが、ジャズなどまさに音をやり取りすることにこそその神髄があるようなものなので、ジャンベと同じように音を使ったコミュニケーションが展開されていたのだっだ。そんな中でベーシストの吉野弘志さんは時おり「にやっ!」と笑顔を見せることがあり、あとで聞いたら「おおっそう来たか!」って感じなんだそうだ。ジャズのレベルになると同じことを繰り返すんじゃなくて、いかにズラして喧嘩ぎりぎりの緊張感を楽しむかってことに面白さがあるんでしょうね。

 人間は一定のリズムに身を任せると安心するともいう。本来はジャンベでたたくような自分の好きなリズムの中にいるのが一番心地よいのだろうが、いかんせん社会の中では好きじゃないリズムにも合わせなきゃいけないことも多い。子どもの生活など「規則正しいリズム」で過ごすことがよしとされていたりして、決まったリズムに子どもを押し込むことに情熱を傾ける方も見受けられたりもするが、まずは子どもとリズムのやり取りをしてみることから始めたいものだ。

 とはいうものの、もうすぐやってくる小学生のキャンプ&お泊まり会では、今回も生活リズム無視のにぎやかなワンナイトが展開されるんだろうなぁ! ジャズメンのようにリズムずらしてくれるのはいいけど…お願いだから、いい子は早く寝ましょうね! ドーン!

(2009/12月号)

蛇足
 人間は一定のリズムに身を任すと精神の安定や安心、頭の回転をよくして直観力をあげる物質「セロトニン」が分泌されるといいます。前回紹介した睡眠ホルモンの「メラトニン」とは逆の働きをするもので、日光を浴びたり一定のリズムで歩いたり、意識的に呼吸をしたり、咀嚼するとセロトニンによって覚醒状態にすることができるのです。面白いのは、セロトニンの大部分は消化管にあるのだそうで、腸が「第二の脳」と呼ばれるのも頷けますね。ちなみにセロトニンを増やすためには必須アミノ酸のトリプトファンを攝取するとよいと言われています。カツオやマグロ、牛乳やチーズ、納豆や豆腐、ナッツ類に多く含まれているとのこと。前回の赤ワインと組み合わせるならチーズかナッツやなぁ…カツオ、マグロ、豆腐だと日本酒かぁ…いかんいかん、考えただけでセロトニンが出てきて覚醒してしまった。
 Joseph Nkosi https://nkosiafrica.com/
 吉野弘志 https://emeregueponchi1955.jimdofree.com/

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